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運動科学者高岡英夫×アルペンスキーヤー星瑞枝選手の「本質力」師弟対談

高岡英夫(たかおか ひでお)
運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、人間の高度能力と身体意識の研究にたずさわる。オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」を開発。日本ゆる協会理事長として東日本大震災復興支援ゆる体操プロジェクトを指揮、自らも被災地でのゆる体操手ぬぐい配布活動、ゆる体操講習活動に取り組む。
星瑞枝(ほし みずえ)
アルペンスキー選手。2006年トリノ冬季オリンピック日本代表。アルペンスキー選手だった父親の影響で、4才の時からスキーを始める。中学3年生で全日本選手権スーパー大回転で優勝(当時最年少記録)。高校2年生でインターハイスラローム優勝。アルペンスキー世界ジュニア選手権は4年連続で日本代表。トリノオリンピック代表として出場したスラロームでは日本人選手中最高の27位を飾る。現在、運動科学総合研究所支援選手として高岡英夫の指導を受けながら、2014年ソチオリンピック出場を目指す。

「講座で楽しく本質力をトレーニングするための教え」第3回 (2012.11.26 掲載)


「ちょっとここを刺激しておこうかな」と思う感覚が大事

高岡 「トップ・センター初級」は、どのメソッドをやる?

 「トップ・センター初級」って、今回行った方法って結構高度なものばかりだったんですよね。だから、毎日やるっていうよりも、何かの状況でハマってきたときに取り入れたいという感じがしました。

高岡 あの方法だけは、ぜひ毎日やったらいいんじゃないかな。「柱角脊椎通し」。あれは角のある壁や柱を見つけたら、ぜひやった方がいいね。何しろ疲労が一気に取れるからね。あと、ゆるゆる棒は、持っているのかい?

 はい、持っています。講座中にゆるゆる棒を使ったメソッドを2セットやりましたよね。とてもビックリしました。あの状況で2セットできるんだと思いました。あれも、凄まじかったです。

高岡 あの方法もね、股関節まで必ずやらなくちゃいけないわけではないんだよ。だから、足、足首、すね、ふくらはぎまでだっていいんだ。そのときの自分の許されている時間とかペースとかがあるでしょう。それに従って自由にやってかまわないんだ。そう考えると、とても気分が楽でしょう。
 星さんはスキー選手だから、何かあるごとに「あっ、ちょっとここを刺激しておこうかな」と思う感覚が大事だね。今日起きて、ゲレンデに行くまでにどれくらいの時間があるかを考えて、「今日の感じだったら、股関節までちゃんと時間を作って、ちゃんとやっておこうかな」とか。他にやらなくてはいけないトレーニングがたくさんあるわけだし、そういうふうに方法の出し入れを上手にできるといいね。あと、軸タンブリングは、ゲレンデでできるだろう?

 はい、できますね。

高岡 それからリフトに乗ってもできる。

 本当ですか!?

高岡 リフトに座りながら、脚が下にあると思って、地球の中心を想像して、地球の中心を玉芯で捉えるんだよ。

 すごいですね! リフトに乗っているときは、「坐骨モゾモゾ座り」なんかもとてもいいですよね。

高岡 それと「Newダイナミック・センター」の中の「スイング・センター」も出来るよ。

 あーっ、なるほど!

リフトに乗っているときに本質的な自分を取り戻す

高岡 あの方法をストックを持ってやるんだよ。じつはフルクラムシフトの前後操作もできる。
 僕個人の話をちょっとさせてもらうと、リフトに乗っている間に滑り終わっちゃうんだよ。リフトに乗っている間に全部滑り終わっちゃう。それはどういうことかというと、僕の場合は1シーズン滑るときでも、多くてせいぜい3日か4日くらいでしょう。そして、次のシーズンに滑るまでに、約1年経ってるんですよ。1年経っていきなりリフトに乗って、そしてリフトを降りたらそのまま滑り下りるわけじゃないですか。それでパッと滑り始めて、1kmも滑る間に昨シーズンの最高の時、つまり帰る直前の状態まで高めていってしまうんだよ。つまり1本の間、およそ1kmも滑れば、十分ピークの状態まで持っていけちゃうということなんだよ。
 だから、いきなり液体化した身体で雪面に立ってサーッと滑り始めると、ピターッと地芯に乗って雪面に吸い付いちゃうわけ。なぜそういうことができるかというと、1年間スキーに必要なグラウンドトレーニングを、当然のごとく普段のレギュラートレーニングの中に入れてあるから。後は当日スキー板を雪面に付けると、付けたところからいきなりトップパフォーマンスなんだよ。それが野沢温泉スキー場だとホテル・サンアントンの山小屋からゴンドラ乗り場まで100mくらいあるんだけど、歩いて移動して、そしてゴンドラに乗るでしょう。ゴンドラに乗った後はもう「スイング・センター」とか、「坐骨モゾモゾ座り」だとか、「軸タンブリング」だとかを次々に行っていくのね。
 そうするとゴンドラ乗っているごくわずかの間に、身体と身体意識の状態が圧倒的に優れてくるんだよ。

 すごいですね。

高岡 全く脱力してくるから、あとはズルとリフトを降りて、降りた時に完全に身体を液体化できるんだ。水みたいな身体にできると斜度がほぼゼロ度に近くたって、スーッ、ピターッと水が流れるように雪面を滑ってきて、これでよしとなるんだ。
 それで、スイング・センターを、言い替えるとフルクラムシフトをかけていく。フルクラムシフトをかけるときは、僕ははるか地球の裏側の宇宙だからね。この前に教えただろう、本当にいいスキーヤーのセンターは雪面のはるか下にまで到達しているって。
 だからね、ゴンドラやリフトに乗ってやれることはいっぱいあるんだよ。その環境ではスキーの具体的な影響がない。雪面もポールもない。より本質的な自分に帰れるから、かえって好都合なんだよ。星さんも今シーズンからぜひやってみなよ。

 わかりました。ゴンドラ、リフトの上ですね。

高岡 リフトのところで一番本質的な自分に戻るわけ。実際にポールの練習をやり出すと、具体的なことに意識がとらわれるから、意識がゴチャゴチャになったりするところがあるんだ。目で見たこと、具体的に起こることに対して、医学的な表現でいう“対症療法的な滑り”になっちゃったりする。
 ああいうとらわれから本質的な自分を取り戻すという点で、リフトの上っていうのはすごくいいんだよ。すごい話でしょう。あのリフトの上で完璧な自分を取り戻すことができるようになったら強いぞー。ハッハッハッ(笑)。
 水になれるようになるとそのことが本当によく分かると思うよ。思う存分あの間にスキー競技の具体的なシチュエーションから開放されて、本質的な自分と向き合えるんだから。その中で意識をどう操作したらいいかということも、いまやトレーニングとして行える時代になってきたということだね。

「下軸の王者“内転筋”を鍛える」を受けて課題が浮き彫りに

高岡 「下軸の王者“内転筋”を鍛える」はどうだった?

 課題がハッキリしました。足をクロスさせて行うメソッドは、元々高岡先生にご指導いただいた方法に入っていたのですが、膝の真上に持ってくるというのが、なかなかできずについ力んじゃうんです。特にこちら側が上手くいかないんですけども、こっち側も上手くいかないし、どちらにも共通して言えるのは、太ももの外側にすっごい力が入ってしまうということなんです。

高岡 そこは、拘束外腿だね。

 ここに力が入っているってことは、背中にも力が入ってるってことですよね。

高岡 うん、まさにバリバリに入っているんだよ。

 それを3人で組んだ時に他の2人の方に助力してもらいながらやっていたのですが、やっぱり背中の力の抜けが導かれるんですよ。そのうえで、内転筋でさするっていうイメージでやると、ここにビシビシ力が通ってくるんですよ。それが今回の講座を受講することで、よりハッキリとわかりました。人の手を借りてやるとやっぱりいいですね(笑)。

高岡 わかりやすいでしょ、人の手を借りると(笑)。

 あの内転筋のトレーニングをやったことで、その日はもちろんなんですが、次の日も内転筋が効いてしまってすごかったです。骨盤から下のセンター、下軸というのをすごくハッキリと感じて、トレーニングをやっていても、特に内側系の動きを使う種目なんかは面白いように内転筋が利いてくるんですよ。以前は内転筋を使ってもブレまくっていたのに今日は全然ブレないな~、みたいな感じでした。

高岡 ピターッと締軸効果が出て、非常によく分かったということだね。ヨーロッパに遠征してからも、その状態を自分で常に作りだせるように工夫したほうがいいね。やっぱり滑るときには、その状態で滑らないともったいないからね。

 最後のあたりにやった寝て脚の根本の部分を上げて足を緩重垂するというメソッドも、あれも今までは普通にただ上げるだけだったので、そういうふうに細かい筋肉まで意識して行うと、じつは難しいトレーニング法なんだというのを初めて実感しました。

内転筋を鍛えるために筋トレをやっては絶対にダメ

高岡 この前のトレーニングでは、「側腰崩し」と「外腿崩し」を教えたでしょう。あれはそのために教えたんだよ。内転筋のトレーニングはそれと組み合わせて行うのが効果的なんだよ。

 内転筋の講座を受けた次の日、じつは昨日までも続いていたんですけど、内転筋がすっごい筋肉痛になっていました。

高岡 それはよいことだよ。

 じつは、今日もまだ痛いんです(笑)。

高岡 でも面白いでしょ。たいして強い負荷をかけていないはずなのに、内転筋全体が筋肉痛になるって。でも、内転筋の筋トレは絶対にやってはダメなんだよ。

 私が今までやってたような普通のトレーニングもですか?

高岡 うん、普通の内転筋の筋トレやるとダメだね。それは筋肉というのは使う順番や方向性、ベクトルがあるからなんだ。普通のトレーニングをやるとベクトルがこっち向き(?)になっちゃう。どの筋トレでもそうなんだけど、通常はそうなってしまう。その辺がよく分かったら、ちゃんとトレーニングして、常にあの状態を作りだしておくことだよ。

 これは難しい課題ですね。

高岡 はい、立派な課題です。よくわかったでしょう。長座後ろ腕支えだから、肘抜きや肩抜き、背抜き、腰抜きができるようにならないといけないね。あれだけ私がしつこく言っている意味が分かったでしょう。あれがもっとちゃんとダラーッと脱力できるように、下半身のコントロールができないと全く意味がないんだよ。

 力がしっかり抜けてないと、ここに重なり合う形が取れないんですね。

高岡 取れないし、もし仮に取ったところで使い物にならない。身体がひん曲がりながらやっても意味ないからね。

 結局違うところに力が入ってるから、ここの中心になる筋は全然使えないわけですね。

高岡 筋肉が正しく使えないうえに、まったく軸にならないんだよ。スポーツって軸が統合するバランスでしょう。どんな局面でもバランスが極めて大事なんだよ。そういう状態では、バランスよく内転筋が使えない。だから余計なところに力が入ったままのトレーニングは、全く意味が無いどころか、大きなマイナスになるんだよ。わかったかな?

 はい。よくわかりました。今日はいろいろと教えていただき、ありがとうございました。

(了)

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