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“ゆるトレ”で史上初の国体5連覇&高校4冠

【文中で紹介された本】

松井浩の特別インタビュー 「小野勝之指導員」

  • 森川監督
  • 小野勝之指導員[語り手]
  • NPO法人日本ゆる協会公認ゆる体操s正指導員中級3rdhGrade。ゆる体操指導員試験試験員。運動科学総合研究所でゆる体操をはじめとした総合的な身体トレーニングの研鑽を積む。岡山県、香川県内でゆる体操教室を主宰、スポーツ選手から中高生、一般の主婦など幅広い年齢層を対象にゆる体操の指導活動にあたる。関西高校ボート部へのゆる体操指導を2003年より継続しており、同部は昨年、どちらも史上初となる国体5連覇、高校4冠を舵手付きクォドルプル(4人漕ぎ)で達成した。
  • 松井浩
  • 松井浩[聞き手]
  • 早稲田大学第一文学部在学中から、フリーライターとして仕事を始め、1986年から3年間「週刊文春」記者。その後「Number」で連載を始めたのをきっかけに取材対象をスポーツ中心にする。テーマは「天才スポーツ選手とは、どんな人たちか」。著書は「高岡英夫は語る すべてはゆるむこと」(小学館文庫)「打撃の神様 榎本喜八伝」(講談社)等。高岡英夫との共著に「サッカー世界一になりたい人だけが読む本」(メディアファクトリー)、「インコースを打て」(講談社)等がある。

“ゆるトレ”で史上初の国体5連覇&高校4冠(2) ~小野勝之指導員~(2009.03.20 掲載)

――「舵手付きクォドルプル(漕ぎ手は4人)」で史上初の国体5連覇、高校4冠(選抜大会、朝日レガッタ、高校総体、国体)という偉業を成し遂げた関西高校ボート部ですが、メンバー全員が、ボートを始めたのは高校に入学してからです。入学直後、教室の前で待っていた先輩に「君、でかいね」などと声をかけられて、半ば強制的に練習場へ連れていかれたみたいですね。ところが、実際にボートを漕いでみると楽しくて、入部は自分の意志で決めたと話していました。そのようにして入部して来る1年生たちは、そもそも、どれくらいゆるんでいるものなのでしょうか。
今回は、ボート部のメンバーに週一回ゆる体操を指導されている岡山在住の小野勝之さんにお話を伺います。

入学してきた時は、集中力も、やる気もあまり感じられないごく普通の高校生

小野 1年生にゆる体操を指導するのは、10月の国体が終わり、3年生が引退してからです。といって、指導の中心は2年生の主力メンバーになりますので、1年生は見よう見まねでさせている程度ですね。指導を始める頃の印象としては、ごく普通の高校生という感じです。たいてい中学時代に運動部の経験がありますので、身体自体はガチガチに固まっているということはないです。指導していて気になるのは、むしろ集中力のなさややる気のなさですね。高校4冠の漕ぎ手4人のうち3人は、当時、1時間の指導中に、早く帰りたいと思っていたのか、10回くらいは時計を見ていました。

――生徒に話を聞いても、最初は、「こんなのして何の意味があるんだろう?」とか、「しょうがないからしている」いう感じだったみたいですね。ところが、しばらくすると「肩甲骨が立つようになりたい」と思って一生懸命するようになったと話してました。「肩甲骨が立つ」というのは、『究極の身体』でいう「甲腕一致」の前提となる、ゆるんだ状態ですね。特に肩甲骨周りをゆるめる指導をされているのですか。

※「甲腕一致」については、『究極の身体』(講談社)第5章「身体分化・各論/[甲腕一致]肩甲骨と腕」(169ページ)で詳しく解説しています。

小野 ボートは座って漕ぐ競技ですので、指導の基本は「椅子ゆる」(椅子を使って行うゆる体操)です。指導するメソッドはできるだけ絞っていますが、「肩甲骨の立つ」状態は、外見でもわかりやすいし、自分でも実感しやすいので、わざと利用しているというところがあります。実際に1つ上の2年生は、それが全員できますから、新入生にとっては自分との差がよくわかって目標にしやすいですし、努力をすれば、先輩に少しずつ近づいていくのも実感できますよね。それで実際に肩甲骨が立つようになれば、達成感も得られますし、自信にもなります。また、他競技の友人や全国大会で他校の選手たちから「ゆる体操って、どんなの?」と聞かれても、それを見せてあげると自慢になりますからね。

――なるほど。高校生の心理を踏まえたうまい指導ですね。もちろん肩甲骨周りがゆるゆるになるというのも、極めて大切なことですしね。だいたいどれくらいの期間で肩甲骨が立つようになるものですか。

小野 2、3ヵ月でなりますよ。ですから、1年生の10月頃から指導を始めて2年生になる頃には、かなりゆるんでいます。

――高校1年生といえば、15、16歳ですものね。もともと若さゆえの柔らかさがありますから、ゆる体操にはまってしまえば、それだけゆるむのも早いんでしょうね。

国体5連覇、4冠達成の学年は、歴代最弱のチームと言われていたが、ゆる体操に真剣に取り組むことで右肩上がりに伸びていった

小野 そうですね。2年生になってもどんどんゆるんでくるんですが、2年生の10月頃から3年生にかけて、またグッと上達していきますね。そういえば、今回の高校4冠の学年は、2年生の時、森川監督が「歴代最弱のチーム」と言われていたので、危機感をもってこれまで以上に真剣に取り組んだのが快挙につながったのだと思います。

――そうだったんですか。史上最弱チームが、森川監督のチームとしての指導と小野さんのゆる体操による能力開発で史上最強チームに変身したということですね。クラブ活動の理想的な姿だと思いますね。では、その史上最強チームのメンバー(用事があって会えなかった藤原頌太君を除く)に、ゆる体操について一言ずつ話してもらいましょう。

廣田裕輝 最初は、ゆる体操をしても、ただ揺れているだけだったんですが、続けていくうちに体が軽くなってくるのを感じました。それからやる気になって、授業中も「椅子ゆる」をよくしていました。

谷和也 僕は、中学の時に野球をしていて腰が痛かったんですが、ゆる体操を始めてから、腰痛が全くなくなりました。大会では、スタート直前にゆる体操を入れることを習慣づけていました。筋肉が固まった状態だと、すぐに身体が動かないので、スタート前にゆる体操をして筋肉をゆるめるようにしていました。

光亦裕登 ゆる体操を続けてきたお陰で舟に乗っている時もリラックスできて、同じ動きがずっとできるようになったと思います。緊張で力んでいると、すぐに疲れてしまいますが、疲れずにゴールまで行けるようになりました。

安井捷登 ゆる体操を習い始めた時、先輩たちは肩甲骨を立てることができたのに、僕はできませんでした。先輩たちのようになりたいと思って真剣にやり始めました。レース前には、どうしても緊張して身体が固くなるのでゆる体操をします。そうすると、身体が固まることもなく、動き出しもスムーズにいきました。

千葉貴司 ゆる体操を続けてきて、リラックスの状態がわかるようになりました。舟に乗って漕いでいる時に、今はゆる体操の時と比べてリラックスできているのかというのがわかるので、できるだけ普段のゆる体操のトレーニングに近づけるようにゆるんでいきます。それと、ゆる体操をすると、疲労回復が早いですね。合宿でも、寝る前の15分間にゆる体操をしているんですが、なんぼ疲れた体でも、次の日はしっかり身体が動きます。

 メンバー全員が、毎日、寝る直前にゆる体操をしていて、翌日まで疲れが残らないと話していました。

今では、先輩から「ゆる体操を真剣にやれ」という言葉が後輩たちへ受け継がれている

小野 実は、このメンバーの一つ上の学年が、夏までの3大会でタイトルを一つも取れなかったんですね。漕ぎ手4人のうち3人は、指導していても集中力がなかったですし、逆に、ふざけたり、ゆる体操も「意味があるの」と斜めから見ているような雰囲気もありました。でも、国体4連覇がかかったチームだったので、最後のレースとなる10月の国体に向けて、何とか本気にさせないといけないと思ったんですね。それには、私と選手たちがどれだけ深いところでつながることができるかだと思っているところに、指導中、1人の生徒が肋骨のゆるみを感じたなという瞬間があったんですね。その瞬間に「その感じだよ」と言って「それを全身で感じていこう」と声をかけたら、それをきっかけにメンバー全員とすごくつながって、それから2ヵ月でとんでもない上達をして国体での優勝につながったんです。この時のキャプテンが、後輩たちに「ゆる体操を本気でやれ」と伝えてくれて、歴代最弱のチームが、その国体直後から本気でゆる体操に取り組んだのです。

――その結果、翌年3月の選抜大会、5月の朝日レガッタ、8月の高校総体と勝って、5連覇を賭けた秋の国体を迎えたと。

小野 私は、国体までの3大会を制覇していたので、選手たちには余裕があるだろうと思っていたのですが、大会が近づくにつれて、逆に緊張していくのがわかるんです。どうしたのだろうと思ったら、ボート競技の盛んな福井県が、県選抜チームを編成しているということで、それがプレッシャーになっていたということでした。それで、私が練習場へ行き、練習の合間、合間にゆる体操を入れて、選手たちの疲れが取れ、リラックスできるようにしました。

――福井県は、まるで関西高校を除いた日本代表のようなチームだったらしいですね。それに、関西高校は5連覇もかかるので、すごいプレッシャーだったでしょうね。

小野 ただ、私から見ても、関西のメンバーは、日頃の努力でかなり深くゆるめるようになっていました。キャプテンの千葉君は、背中の肋骨を内側から意識できるほどゆるんでましたからね。

――おー、それはかなりのレベルですね。感動的なゆるみ方ですね。

小野 ですから、試合直前の10~15分でゆる体操をすれば、集中とリラックスとを高度に高めた状態へもっていくことができました。

――最終的に関西高校が勝つのですが、その差が、わずかに0・12秒でした。もう写真判定ですよね。森川監督も「ラスト20mぐらいで、誰かが押してくれたのかと思いました」とお話されていましたね。

小野 最後に競り合っても、深く、高度にゆるむことができたので、ほんとにわずかな差で勝てたのだと思います。

――選手たちも、「自分たちではわからなかったですけど、写真にもある通り、ゆるんだのだと思います」と話していましたが、勝利を告げられてガッツポーズしている写真をみると、本当にのびのびとして深くゆるんでいるのがよくわかります。紛れもなくゆるトレーニングの効果ですね。
こうしてお話を伺っていると、偉業を達成した関西高校ボート部の日頃の努力もさることながら、小野さんも、素晴らしいサポートをされていますね。若い世代をゆる体操でサポートしていくことは、現在の彼らだけではなく、彼らの将来にとってもとても有意義なことですからね。今後も、ますますのご活躍を期待しています。

  • 関西高校ボート部
  • 史上初の国体5連覇、高校4冠を成し遂げた
    関西高校ボート部員のガッツポーズ

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