ホーム > 第19回 高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」

高岡英夫の対談
「トップアスリートを斬る」

【文中で紹介された本】

第19回 高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」

  • 高岡英夫
  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。
     
  • 松井浩
  • 松井浩[聞き手]
  • 早稲田大学第一文学部在学中から、フリーライターとして仕事を始め、1986年から3年間「週刊文春」記者。その後「Number」で連載を始めたのをきっかけに取材対象をスポーツ中心にする。テーマは「天才スポーツ選手とは、どんな人たちか」。著書は「高岡英夫は語る すべてはゆるむこと」(小学館文庫)「打撃の神様 榎本喜八伝」(講談社)等。高岡英夫との共著に「サッカー世界一になりたい人だけが読む本」「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」「サッカー日本代表が世界を制する日」(いずれもメディアファクトリー)、「インコースを打て」(講談社)等がある。

第19回 宮里藍【後編】(2008.12.05 掲載)

根本的に解決しようと思えば、ゆるトレーニングに取り組み、ゆるんだ身体を取り戻すしかない

高岡 短期的には、たとえば筋トレにしろ、技術のトレーニングにしろ、真面目に取り組めば、それなりに成果が出ることもあるでしょう。しかし、最大の原因は身体が固まりつつあるということですから、根本的に解決したいと思えば、ゆるトレーニングをするしかないでしょうね。専門的なテクニックを使えば、確実にかつてのゆるみを取り戻すことができるんですからね。

――同じ問題に直面しているのは、藍ちゃんだけではないですしね。男女を問わず、あらゆるスポーツにいますよね。

高岡 もちろんです。あの宮本武蔵も、そうだったんですから。

――えっ、宮本武蔵も、ですか。

高岡 私の研究でわかったことですけれども、宮本武蔵も同じ問題に直面していたんですよ。武蔵は、実は、13歳の時が一番ゆるんでいたんです。そして、その身体のゆるみに素直に従ったパフォーマンスで、有馬喜兵衛という剣術家との闘いに勝って殺してしまいます。

 歴史上有名な誤説としては、武蔵が子供の頃から大人のように身体が大きくて、有馬喜兵衛を怪力でかつぎ投げたということになっています。しかし、それは武蔵の足を引っ張りたい人々が捏造し伝え合って来た趣味の悪い作り話で、子供が大人に勝った奇跡のような出来事の真の原因は、武蔵の身体がまるで水のようにゆるんでいたことなんですよ。身体が水のようにゆるんでいたら、相手の出方に応じて、どのようにも動けるじゃないですか。水は、器に応じて自由自在に形を変えることができるでしょう。現実に、武蔵はそのように動いて、一瞬でほとんど撲殺に近いような状態で相手を倒したと、私は確信しています。最後に殺したのは、絶命させてやらないと、かえって相手が苦しむからですよ。

 ところが、その後、武蔵はどんどんゆるみを失っていきます。そして、技術や戦術などをあれこれ身につけ、まさに足し算の人生を送ったんです。だけど、ゆるむことの天才でもあったので、他の剣術家と比べると、まだゆるんでいた方だったんですね。さらに、その他の装置もたくさん持っていたから、吉岡一門とか、巌流島で佐々木小次郎などに勝つことは勝ったんですよ。しかし、『五輪書』では、有馬喜兵衛に勝った後は、足し算でいろんなものが身についてしまった自分と対峙していく人生だったという内容のことを語っています。

 また、武蔵は、その『五輪書』の導入部で、水を根本の手本とすると言い切っています。その原点がどこにあったかというと、身体が最もゆるんでいた13歳の時の対決なんです。そこから身体が固まり、さまざまなものを足し算していくという苦しい人生を乗り越える修行を重ねながら、やがて50歳の頃にそれを超越するんですね。そこで得た真理こそ、心身ともに水のようになるということだったのです。

――宮本武蔵ほどの人でも、人生に悩んでいたんですねぇ。

高岡 悩みに悩んで、最後にたどりついたのが、あの最もゆるんでいた13歳の頃の身体を取り戻すことだったんですよ。そして、武蔵のたどり着いた究極の身体が、水のようになるということだったのです。藍ちゃんもそうでしょうけど、将来を期待された選手が、成績も伸びないし、思うようにできない時というのは、本人が一番悶々としている時期でしょう。しかし、そういう時こそ、悩んでいないで、一日も早く身体をゆるめるトレーニングを始めるのがいいんですよ。

――これから、藍ちゃんが本当に世界のトップ選手になりたいと思うなら、やはり根本的な問題に真正面から取り組むことでしょうね。

高岡 ゆるトレーニングについて、こう考えてもらうとわかりやすいと思いますね。たとえば、筋力トレーニングってありますね。コンディショニングトレーニングもありますね。メンタルトレーニングに取り組む選手も増えていますね。それらのトレーニングと同じように、「ゆるトレーニング」というのもあるんです。そして、その体系的なメソッドも用意されていて、それらには科学的な裏づけもあるわけです。

――実証例も、数々ありますしね。具体的には、「第17回サッカー日本代表②」でも紹介しています。

高岡 身体をゆるめなければ、何ごとも生まれないんです。武蔵も言っているように、一番前提となる根本的なことは、ゆるむことなんです。藍ちゃんが最近伸び悩んでいる原因ははっきりしているのですから、後は、藍ちゃん自身が、それをどう理解して、「ゆるトレーニング」に取り組むかどうかであると、私は考えています。

▲このページの先頭に戻る