ホーム > 第26回 高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」 WBC特集 侍ジャパン編

高岡英夫の対談
「トップアスリートを斬る」

【文中で紹介された本】

高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」WBC特集

  • 高岡英夫
  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。
  • 松井浩
  • 松井浩[聞き手]
  • 早稲田大学第一文学部在学中から、フリーライターとして仕事を始め、1986年から3年間「週刊文春」記者。その後「Number」で連載を始めたのをきっかけに取材対象をスポーツ中心にする。テーマは「天才スポーツ選手とは、どんな人たちか」。著書は「高岡英夫は語る すべてはゆるむこと」(小学館文庫)「打撃の神様 榎本喜八伝」(講談社)等。高岡英夫との共著に「サッカー世界一になりたい人だけが読む本」「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」「サッカー日本代表が世界を制する日」(いずれもメディアファクトリー)、「インコースを打て」(講談社)等がある。

第26回 松坂大輔(1)(2009.05.01 掲載/2009.10.16 DS図公開)

  • 松坂大輔のDS図
  • 松坂大輔のDS図
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――WBC特集の2回目は、日本のエース松坂大輔です。横浜高校から西武ライオンズに入り、現在はボストン・レッドソックスで活躍しているのは皆さんご存じだと思いますが、今回のWBCでも第1ラウンドの韓国戦、第2ラウンドのキューバ戦、そして準決勝のアメリカ戦に先発して、いずれも勝利投手となり、2大会連続のMVPを獲得しました。この松坂について、高岡先生に身体意識の観点から分析してもらいます。まず、松坂の身体意識の最大の特徴は何でしょうか。

※「身体意識」とは、高岡が発見した身体に形成される潜在意識のことであり、視聴覚的意識に対する「体性感覚的意識」の学術的省略表現である。『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)のはじめに(1ページ~)、序章(17ページ~)や『身体意識を鍛える』(青春出版社)の第2章「達人たちの〝身体づかい〟7つの極意を知る」(45ページ~)で詳しく解説しています。

高岡 最大の特徴は、センターですね。

――高校生の頃から日本中を沸かせてきたピッチャーですので、やはりセンターは発達していますね。

※センター(中央軸)とは、身体の中央を天地に貫く身体意識。『究極の身体』(講談社)の第2章「重心感知と脱力のメカニズム」(49ページ~)や『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)の序章(17ページ~、第1章「センター」(45ページ~)で詳しく解説しています。

松坂のセンターは、現在も成長中であることが最大の特徴

高岡 ただ、前回お話した岩隈久志と比べると、センターの通り方の正確さ、高さで少し劣るんです。岩隈の第3軸(4本の中央軸の中でも最も重要な身体意識)がしっかり通ったものなのに対して、松坂の第3軸は、常に作り上げられつつあるという特徴があるんです。つまり、第3軸が成長過程にあるといえます。

――えっ、メジャーリーグでも活躍するピッチャーなのに、まだセンターが成長しつつあるんですか。

高岡 松坂は、高校時代から現在まで、それぞれのレベルの第一線で活躍していますよね。だから、私もマスメディアを通して松坂を見る機会が多かったのですが、松坂を見ていて、彼の大きな転機となったのは結婚だと思います。結婚をきっかけに、松坂は明らかに変わりましたよ。

――結婚といえば、’04年のシーズンオフに日本テレビのアナウンサーだった柴田倫世さんと結ばれました。

松坂の成長するセンターは、結婚をきっかけにきわだって育ってきた

高岡 現実に田舎の青年が「田舎っぽい」わけではないですけど、結婚するまでの松坂って、絵に描いたような「田舎の兄ちゃん顔」をしていたでしょう。表情にスーッと抜け通るものが感じられず、野暮ったいというか、あまり賢そうな印象を受けない顔をしていましたよ。

――確かに西武ライオンズ時代は、どこか垢抜けない感じがありましたね。

高岡 それが、結婚の前後から、表情にもスーッと抜け通るものが感じられるようになってきました。

――私は、'06年の第1回WBCの時、それに翌’07年にメジャーリーグへ移った時には、松坂の表情が垢抜けてきたというのは感じていました。その変化は、すでに’04年の結婚の前後から始まっていたということですね。

高岡 そうなんですね。私が「松坂、変わったな」と感じたのは結婚の前後でした。身体意識の観点でいえば、表情にスーッと抜けるものが感じられるというのは、身体の前寄りの中央軸(第1軸と第2軸)が育ってきたからなんですね。そして、第1軸や第2軸が育つということは、必ず、それらの背景となる第3軸も育っているわけで、その第3軸が結婚の前後から通るようになってきたということです。松坂にとって、今の奥さんとの結婚が非常に良かったのだろうと思いますね。

――で、その成長する第3軸がメジャーリーグに行ってからも成長を続け、現在も、なお成長中ということなんですね。

WBCでは、松坂のセンターが岩隈のセンターと呼応してチームの支えとなった

高岡 そうです。それが、今回のWBCでは岩隈のセンターと呼び合う、あるいは助け合う形で発達して、岩隈に次いでチームの第2の支柱になりましたね。勝ち星が多い(松坂は3勝、岩隈は1勝)ことと、メジャーリーグで活躍して知名度も高いということで、MVPは松坂が受賞したのでしょうけれど。

――松坂がアメリカとキューバ打線をしっかり抑えたという点も、印象度では大きかったでしょうね。

高岡 それもありますよね。いずれにせよ、チームの支柱の1人であったからこそMVPを受賞したわけで、チームの第2の支柱、第2のバックボーンとして、松坂のセンターにもかなりの強さがあったということです。前回の岩隈の分析で、岩隈のセンターの素晴らしさを大変に誉めましたが、松坂も、また素晴らしいセンターを持っていました。

――日本は打線が苦しみましたので、それだけ投手力の充実ぶりが際立ちましたね。

高岡 だから、優勝できたんですよね。そして、その中心が岩隈と松坂だったでしょう。身体意識の観点からいえば、日本の投手力の素晴らしさは、この2人のセンターに尽きるという言い方ができます。人の身体と精神をコントロールするセンターが、岩隈と松坂の2人でこれだけ強かったから優勝できたということです。

――野球界では、昔から「軸」の大切さが説かれてきました。その軸がしっかりしていたからこそ、松坂も岩隈も、WBCの舞台で大活躍できたということですね。

高岡 ただし、野球界で「軸」といっても、これまではせいぜい打つ、投げるといった動作との関係でしか語られていません。岩隈と松坂の分析で、私は「軸(センター)」が精神面にも深く関わっているという話をしました。その点について、読者の皆さんもそれぞれに思いを巡らせたり、参考にしてほしいと思います。

――そうですね。身体意識は、身体と精神の両方に深く関わるのですから、センターが精神面に与える影響も大きいですね。それを改めて認識しました。

 その一方で、私は、松坂が高校時代から日本中を沸かせる活躍をしてきたのに、センターが形成されてきたのが結婚前後というお話に「あれ、どういうこと?」という疑問が残りました。そこで、次回は、松坂の若い頃とセンターについて聞きたいと思います。

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