米露首脳の本質を身体意識理論で解き明かす
- 高岡英夫[語り手]
運動科学者、高度能力学者、「ゆる」開発者。運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長。東京大学卒業後、同大学院教育学研究科を修了。
東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、人間の高度能力と身体意識の研究にたずさわる。オリンピック選手、企業経営者、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」をはじめ「身体意識開発法」「総合呼吸法」「ゆるケアサイズ」など、多くの「YURU PRACTICE(ゆるプラクティス)」を開発。
運動総研主催の各種講座・教室で広く公開。一流スポーツ選手から主婦、高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。地方公共団体の健康増進計画などにおける運動療法責任者もつとめる。東日本大震災後は復興支援のため、ゆる体操プロジェクトを指揮し、自らも被災地で指導に取り組む。
著書は『究極の身体』(講談社)など100冊を超える。
- 松井浩[聞き手]
早稲田大学第一文学部在学中から、フリーライターとして仕事を始め、1986年から3年間「週刊文春」記者。その後「Number」で連載を始めたのをきっかけに取材対象をスポーツ中心にする。
テーマは「天才スポーツ選手とは、どんな人たちか」。著書は『高岡英夫は語る すべてはゆるむこと』(小学館文庫)、『打撃の神様 榎本喜八伝』(講談社)等。高岡英夫との共著に『日本人が世界一になるためのサッカーゆるトレーニング55』(KADOKAWA)、『サッカー世界一になりたい人だけが読む本』、『ワールドクラスになるためのサッカートレーニング』、『サッカー日本代表が世界を制する日』(いずれもメディアファクトリー)、『インコースを打て』(講談社)等がある。
ウラジーミル・プーチン(1)
(2017.04.19 掲載)
――プーチンのBA図は、全体に黒っぽいんですね。
高岡 「なんじゃ、これは???」でしょう。まず圧倒的なのは「肩包面パーム」ですね。「肩包面」と「パーム」がつながって一体構造をなしている。「中丹田」をがっちりと抑え込んでいるヘビーな身体意識なんです。完全に「中丹田」を抑えこんでいます。
――こうなると、中丹田から溢れた熱性のエネルギーが暴走して頭に昇るということも、まったくないんでしょうね。
※「身体意識」とは、高岡が世界に先がけて発見した身体に形成される潜在意識のことであり、視聴覚的意識に対する「体性感覚的意識」の学術的略称概念である。
『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)のはじめに(1ページ~)、序章(17ページ~)、
『究極の身体』(講談社)の第2章「重心感知と脱力のメカニズム/センター」(72ページ~)、
『「身体意識」から観る天才学』(BABジャパン)の「身体意識=BA(Body Awareness)とは?」(2ページ)、「はじめに」(6ページ〜)で詳しく解説しています。
※センター(中央軸)とは、身体の中央を天地に貫く身体意識。
『究極の身体』(講談社)の第2章「重心感知と脱力のメカニズム」(49ページ~)、
『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)の序章(17ページ~)、第1章「センター」(45ページ~)、
『体の軸・心の軸・生き方の軸』の序章「軸は身体にも心にもある」(11ページ〜)で詳しく解説しています。
熱性のエネルギーが重性、剛性の身体意識に覆い隠されている
高岡 でも、胸にはすさまじい中丹田があって情動のエネルギーが充満しているんです。それが顔や言動には出てこない。といって上からの天性の身体意識によって涼しい顔をしているわけでもないし、下丹田が発達していて下丹田でドシッと抑えているわけでもない。「何なんだろう?」という人物でしょう。
――不気味な感じはしますね。
高岡 そうなんですよ。その不気味さが、この「肩包面パーム」にがっしりと抑えられた「中丹田」に由来するんです。
――公の場では見るからに不気味なんですけど、プライベートでは冗談好きで面白い人物らしいですね。
高岡 プライベートでは、ほんとにちょっとだけ出している程度です。この人のもつ情動のエネルギーの100万分の1くらいでしょう、プライベートで出しているのは。
ものすごくヘビーでがっちりした「パーム」をつくり、前からも裏側からも作っている。だから部厚さもあります。その中にちょっとだけ熱性のパームがあるんですけど、これだけ強大な国の大統領としてはパームが小さいですよね。本当に国民もちょっとだけ愛している、ちょっとだけ気にかけているという程度です。
――それでも見ていると妙な安心感がありますね。
高岡 超ヘビーな重量があり、かつ鋼のような硬さをもつ剛腕、辣腕でガシッと掌握されているからです。国民からすると従わざるを得ないという感じなんですけど、これだけの剛腕、辣腕でグッと掌握された状態で、その内側で少しだけホンノリと温かくされたら、妙な安心感をもってしまうんですよ。だから、あれだけ国民の支持率も高いんですね。
それから、後ろから巨大な「流舟」が入ってきていますよね。これが、またすっぽり重性、剛性なものに覆われているんです。熱性のものが外へ出ないんです。だからプーチンには「行け、行け」とか、「行くぞ~」といった熱力満々なところがどこにも感じられないんです。トランプとは正反対ですよね。プーチンがプロレスラーだったら、全然人気出ないですよ、見ていて面白くないですから。熱性の身体意識がどんどんどんどん表に出ていかないと、周りの人や見ている人は盛りあがらないですから。
――ロシアでも支持率は高いけど、人々がプーチンに熱狂しているという雰囲気はないですね。
言動に派手さはないけど、やる時にはさりげなくやってしまうタイプ
高岡 そうなりますよ。
このプーチンの特徴は、非常に恐ろしいところですよ。「行け、行け」のすさまじい熱性のパワーをもっていながら、それを見せない。重性、剛性のフタをかぶった強大な熱性のパワーなんです。こういうタイプは珍しいです。
2014年にクリミア半島の一方的なロシア編入をやったじゃないですか。クリミア半島はロシアの脳下垂体みたいなもので非常に重要なところ。よほどやりにくいことも、やる時にはさりげなくやってしまえるんですよ。
――ウクライナで親ロシアの大統領が倒れると、ウクライナがEU(欧州連合)になびく前にクリミア半島内のロシア系住民を保護するという名目で軍事介入しました。そして、クリミア共和国の独立とロシアへの編入を果たさせました。
シリアでも、派手さはないですけど軍事介入をしました。アサド政権を支援する立場でアメリカと対立しながら、対IS(イスラム国)の戦いでは歩調を合わせたり、日頃のニュースを見ているだけではわかりにくい関わり方ですね。
高岡 そうだよね。よく「本音を隠す」というけど、プーチンはそれだけでは捉えきれない超本格的な二重構造をしているわけです。とてつもない「行け、行けのエネルギー」をもっているのに、それを何があっても絶対に表には出さない。
――そういえば、昨年の北方領土騒動もそうでしたね。当初、マスコミ報道ではプーチン来日で大きな進展があるかのような論調でしたが、いつの間にか「無理です」、「やっぱりな」という話になりました。
高岡 かといって、日本の盛り上がりに対して何か対抗的な大きなアクションを起こしたかというとそういうこともなかったでしょう。
――いつの間にか、安倍さんが押さえこまれていたという感じでした。
高岡 そうでしょう。そういう意味で、プーチンは見事な「兵法家」なんですね。トランプがプロレスラーをはるかに超えた戦闘者とすれば、プーチンは兵法家なんです。ロシアの国民や国土を従えて、じわじわと優勢に立っていくというような。
――プーチンとトランプの戦いは見ものですね。
高岡 見ものですね。BA的にいえば、プーチンの勝ちですけどね。
――トランプはスキが多いですね。
高岡 スキだらけですよ。それに対してプーチンは鉄壁の防御能力をもちますからね。トランプのBA分析のところで、トランプに勝つにはトランプ以上の熱性のパワーをもつ身体意識の構造で圧倒するか、トランプの熱性パワーを吸収するか、と話したんですけど、熱く攻撃するトランプと、鉄壁の守りで対抗するプーチンという第3のパターンも、見応えありありですよ。
*本対談はアメリカによる4月6日夜(日本時間7日午前)のシリア政府軍へのミサイル攻撃より前の、2月3日に行われたものを、手を入れずにお届けしています。
ウラジーミル・プーチン(2)へつづく