ホーム > 花柳壽惠幸―日本舞踊界の頂点に君臨する“究極の身体”の評価とその実力

〜第84回女流名家舞踊大会開催特別企画〜

  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。

花柳壽惠幸 日本舞踊界の頂点に君臨する“究極の身体”の評価とその実力(2009.02.06 掲載)

数ある日本舞踊公演会の中で最高峰の大会「女流名家舞踊大会」

究極の身体サイトは、まさに人類として、究極的に優れた身体、身体能力、さらには身体意識のメカニズムをお伝えするサイトです。しかもそのメカニズムをできるだけ具体例を通して、具体的人物を通して皆さんにお伝えするサイトです。その究極の身体サイトにおいて、いまなぜ日本舞踊、しかも女性の行う女流大会についてのお知らせをするかについて、今回はお話しします。

 まず第一に、この女流名家舞踊大会は、数ある日本舞踊の公演会の中で文字通り最高峰の大会だということです。つまり他のスポーツや武道などの言い方をたとえに借りれば、全日本女子日本舞踊選手権大会という位置づけになるものなのです。

もちろんこの大会は順位を競う大会ではないですから、順位が出ることはないのですが、主催が配布する公式の案内書やポスター等にも書かれている通り、各流派の名手、花形が総出演するわけです。

ですから当然のことながら、日本舞踊の女性の踊り手たちの中で最も身体が優れて、身体を使え、身体意識の優れた人たちが結集するという事になります。それがまず一つ目の理由です。

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マイケル・ジョーダンや双葉山に匹敵するほどの身体開発度を誇る「花柳壽惠幸」という奇跡的存在

そしてもう一つ、この究極の身体サイトでこの話題を取り上げる理由があります。それは第一の理由よりも、もっと端的で優れた理由であるかもしれません。

それは、この舞踊大会に花柳壽惠幸(はなやぎ すえゆき)という踊り手が出演するということです。この人は、究極の身体的に見たときに、だいたいどのくらいの人間に匹敵するかというと、あの世界のスポーツ界で世紀の天才と位置付けられるマイケル・ジョーダンやスキーのインゲマル・ステンマルク、陸上のカール・ルイスなどです。

日本ではその水準の人物を捜すのに苦労しますが、あえて探すとすると現代では、野球の大リーグのイチロー位でしょうか。過去の人物でいうと卓球黄金期を築き上げ、国際卓球連盟(ITTF)の会長を長く務めた荻村伊智朗(おぎむら いちろう)、それから「フジヤマのトビウオ」の異名を取った古橋廣之進(ふるはし ひろのしん)。そして、もう少し古くていうと、相撲の双葉山などです。まあしいて言って、双葉山ほどではないけれども戦後相撲の全盛期の栃若時代を作った栃錦、若乃花。そういう人たちの水準を、はっきり越えているんです。

ですからいまこの日本という北海道から沖縄までの土地には、花柳壽惠幸氏のレベルの身体と身体能力と身体意識を持ち合わせた現役のアスリートはいないといえるでしょう。浅田真央は天才ですけれども、花柳壽惠幸氏のレベルまではいっていないですね。浅田真央がこれから順調に育って引退する前にそのところまで行けるかどうかの水準に既にこの花柳壽惠幸という人は60年も前に到達して、そのまま半世紀以上に渡ってそのレベルをずっと保ってきたということなんですね。

それでは「それは究極の身体ではないのか」、「それこそ奇跡的な存在じゃないか」という話になるのですが、その存在はまさに奇跡的といってよいでしょう。こんな事があり得るのかというほどの存在だと僕は考えています。

ということで、この究極の身体サイトであえて女流名家を取り上げる理由がおわかりいただけたかと思います。まさにその優れた舞踊家たちの中に入って、ひときわ燦然と輝く圧倒的な能力を持った花柳壽惠幸という人をぜひご覧になられたら究極の身体サイトの読者には大変良い研究、もしくは勉強になるのではないでしょうか。

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希代の名人 花柳寿惠幸の身体意識(2009.02.06 掲載)

文:高岡英夫(平成16年7月発表)

今般、日本舞踊の花柳寿惠幸(はなやぎ すえゆき)氏の身体意識の構造分析を本格的にさせていただきました。この方は花柳流三代目家元の直弟子で、80歳(現在85歳)。武原はん氏のようなスター的な人気はありませんが、プロ中のプロが高く評価をする舞踊家で、日舞に挑戦している運動科学総合研究所のNido=神津圭子が師事する師匠でもあります。

私はここ2年くらいの間にこの方の舞台を何回か拝見してきたのですが、そのあまりの素晴らしさに、この方の身体意識の構造はおそらく武原はん氏以上であろう、いや、もしかすると、全スポーツ界、西洋のバレエ界、武道・武術界を見渡しても、この人に並ぶ人は数少ないかもしれない、と推測していました。

推測の段階でそのように感じた人の身体意識の構造分析は、威儀を正してきちっと行わなければいけません。それには機が熟すのを待つ必要がありました。

その分析は大変なものでした。分析すれどもすれども、次から次へと優れた身体意識の構造が現れてくる。私はその分析の結果を、輪郭だけの人体を書いた紙に書き入れていくのですが、今回はその紙を5枚使ったところでひとまず分析を止めました。その段階でかなり優れた構造がまだ残っているな、と感じていたのですが、その先の分析は、また機会をきちっと作ってすることにしたのです。

こんなことになったのは、大東流合気柔術の佐川幸義師の分析以来のことです。つまり花柳寿惠幸氏の身体意識の構造は私の推測どおり武原はん氏を超えているどころか、並ぶものとしては、佐川幸義氏他かなり少数の人物に限られるのではというほど素晴らしいものだったのです。

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しっかりとした重性、剛性のセンター系身体意識

まずあげるべき花柳寿惠幸氏の身体意識の構造の特徴は、その構造全体における骨格が非常にしっかりしている、つまり、重性、剛性のセンター系の身体意識が非常にしっかりしているということです。中心になるセンターが1本、なかなか類を見ない深さと高さを持った側軸が2本、さらに対角線状に通るクロスセンターもしっかりと4本通っています。このクロスセンターは静的なもので、スウィング性はありません。この計7本が身体意識の構造全体の大きな骨格を占めているのです。そして、そのセンター系の身体意識に呼応するように、はっきりとした三重構造を見せる巨大な下丹田があります。

この方の存在と踊りに、なんとしっかりしているのだろうという印象を私は持ってきましたが、これでそのわけが判明しました。この方に匹敵するほどしっかりした構造を持つ人物は、武道・武術界広しと言えど、剛体を極まで高めた空手家である中村日出夫氏と、側軸が偉大に発達した鹿島神流の国井善弥氏あるいは本部御殿手の上原清吉氏くらいでしょう。

次にあげるべき特徴は、熱性の身体意識の構造のすさまじいまでの発達です。巨大な中丹田、見事に開発された心田及び心田流があり、左右の脇には脇枕が3つずつ重なっています。そして、手のパームも見事です。

とはいえ、同じく熱性の身体意識が発達しているブルース・リーやアントニオ猪木のように、ボーボーと燃えるようなものが溢れ出ている所はこの方にはありません。というのは、それらの熱性のものが、しっかりとしたセンター系と下丹田という重性、剛性の構造によって正確にコントロールされているからです。重性、剛性と熱性の二重構造が実にしっかり噛み合って、高度な整合性を保っている。ここがこの方の重要な特徴です。

だからこの方の踊りや存在から猛烈な温かさ、熱気、ほとばしるような情熱、パワーを感じるものの、それが氏の印象を決定づけるものにはならない。これでは一般の人には分かりません。

さて、これだけ重性、剛性のセンター系と下丹田が強いと、スライサーは無いのかなと思いきや、きちっと分析してみると、ものの見事なスライサーがありました。8段重ねで、そのうちの5段は2枚構造になっている。それも非常に滑らかなスライサーで、常時微妙にずれあっているのです。簡単に言ったら、極めて剛性、重性の強い骨格でガシッと立っていながら、その中にいつも水平方向にずれあい、滑りあっている身体運動が存在するのです。だからこれも皆さんには分かりにくい。つまり優れすぎているのです。武原はん氏の場合、重性、剛性が弱い。だからスライサーがすぐに分かる。いつもスライサーに乗って漂っている印象がある。ところが、この方の場合、その印象はないのです。武原はん氏を圧倒的に超える次元にあることのメカニズムは、こうした構造をなしているのです。

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すべてのクオリティを備えた身体意識の構造

花柳寿惠幸氏はすばらしい教育者です。ここまでご自身が踊れるような方は、たいていの場合、教育者としては欠格者です。ところが彼女は弟子をかわいがる、すなわち鍛え上げるために、自分の時間と労力を惜しむことなく弟子に与え続けるのです。おそらくこのような師匠は全世界のあらゆる舞踊の世界で、他に一人いるか、いないかでしょう。

氏はすべての弟子に対して、すべてを教える踊りを3回も見せてくれる。つまり、まさに踊り続けて体で示すのです。指導でもこのように踊り続けきたからこそ、自分が鍛えられ、ここまでの身体意識の構造を育てることができたのでしょう。

それを可能にしているのが、ガイアからのエネルギーを導入する身体意識の構造の発達です。そのレベルは人間を養育することに特化した存在である妊婦・産婦並みです。このガイヤ性の身体意識と、見事な剛性、重性のセンター系、熱性の身体意識、さらには天からの優れた天性の身体意識が、陰に入り、表に出つつ、また陰に入りしている。それが彼女の不思議な温かさを感じさせる踊りの秘密なのです。

また、日舞のテーマは実に多彩です。いわば森羅万象をその対象にしているので、テーマによって得意、不得意があるのが普通です。ところが、寿惠幸氏はどんなテーマでも見事に演じてしまうのです。身体意識の構造から、なぜそのようなことができるのかを探ってみると、今言った重性、剛性、熱性、天性、ガイア性といった身体意識のクオリティのすべての可能性を万遍なく、それも非常に強くしっかりとした構造で所有していることがあげられます。森羅万象はこれらのクオリティによって出来上がっているのです。だから、これだけ見事な身体意識の構造を持っていれば、それを瞬時に調整して、どんなものにも成り切れるのでしょう。

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優れすぎているがゆえに、人気にはつながりにくい

このような分析をしてきて気づいたのは、武道・武術界で言ったら、武原はん氏は合気道の開祖・植芝盛平氏、花柳寿惠幸氏は佐川幸義氏のような存在なのでは、ということです。やはり人気につながっていく存在、パフォーマンス、身体意識の構造をしている方と、ひたすら実力の世界に深く入っていく身体意識の構造をしている方がいるのでしょう。

また、たとえばレオナルド・ダ・ビンチは多才すぎて何をやった人か、にわかには分かりにくいけれど、ルノアールやロートレックなら、ああ、ああいう画風の画家ね、と名前を聞いた瞬間に一つのイメージが湧く。はん氏なら幻想至上の美というような一つの方向性をもった印象があった。でも、この方は一つの印象にならない。だから分かりにくい。優れすぎているがゆえに分かりにくいのです。だから、普通の意味でのスター的な人気が起きないのは当然なのでしょう。

これほどのすばらしい方なのですが、惜しいかな、70代に入ってまもなく、インドでの公演旅行で、悪い環境の中で強行軍をされたことで膝から腰をひどく壊してしまいました。その年齢で故障をすること自体大変なのですが、氏の場合、これまでお話してきたように、強烈な負荷を身体に要求するすさまじい身体意識の構造をしているが故に、今、大変な状況にあります。普通は優れた身体意識に身体が支えられ、高度な身体の使い方ができるようになるのです。でも、これだけの身体意識の構造を持ってしまうと、逆にこの身体意識を体現するために身体がどこまでついていけるか、という話にもなってしまうのです。

だから、これからはいかに肉体を保っていただくかが大いなる課題です。日本の『至宝』のような方ですから、私も身体のケアをお手伝いさせていただいている者として、今回の分析で、ますますもって褌を締め直して努力させていただかなければいけないと、心を新たにした次第です。

最後に、寿惠幸氏は一年に数回しか踊りをお見せになることがありません。ここまでの身体意識の構造に支えられた踊りを鑑賞されることは、身体意識に興味のある方にとっては、かけがえのない学びの場になることと思い、ここに紹介させていただくことに致した次第です。

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