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新たなる「自己発見」と「真理探究」への旅

『スキー革命はゆるスキーで』 談:高岡英夫

  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。

「重力」と「気」を最高度に活用できるスポーツ

編集部 そもそもスキーとは、それほど素晴らしいスポーツなのでしょうか?

高岡英夫 地球上に存在するスポーツの中で、最も優れたスポーツの一つと言えるでしょうね。斜面に積もっている雪は、地球の重力を利用させてくれる理想の装置という点で、天からの贈り物そのものであると思います。そこには地球の壮大な重力、即ち地球の中心から生まれてくる力があふれています。その意味で壮大な空間を最高度に利用し切るスポーツと言えるでしょう

 また、降って間もない雪はマイナスイオンに満ち満ちています。東洋哲学の立場で、気の側面から語ると、天の気で満ち満ちていると言えるのです。地上にいながら、天の気が溢れかえる中で行う、最も良質の気の循環の激しいスポーツだというわけです。気は身体のみならず精神にとっても良い影響を与えますから、当然、心身共に素晴らしい効果が生まれます。こうした観点で私はスキーこそ、他にはない「特別に価値のあるスポーツ」であると考えています。

編集部 仮に今世界中に一ケ所もスキー場がないとして、これから土地を開発してスキー場を作ってまで行うほどの価値があるスポーツだとお考えになりますか?

高岡 開発してまで行った方がいいと考えます。それほど優れたスポーツだと言うことができます。ただ環境問題及び投資コストを含めて考えると、今から山を切り開いて、木々を倒し、スキー場を作ってまでスキーを行う価値があるかどうかというと、天秤が五分五分になってしまいます。

 しかし、幸いなことにスキー場は既に作られているのです。むしろ、すでに作ってある施設が休眠状態のままでは、却って資源のマイナスですし、人に素晴らしい影響を与えられるメカニズムを持っているスポーツなのですから、それこそもっと盛んに行わなければ、正に「もったいない!」と言うべきでしょう。

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40歳で始めた私にとってのスキーというチャレンジ

編集部 若い頃はまったくスキーをやらなかったのに、なぜスキーをされることになったのか、その理由やその後のいきさつを教えてください。

高岡 40歳になって、一念発起して「自分の身体運動に関する能力開発、上達の理論と方法を自分の身体を使って実証したい」という目的意識を持ち、スポーツとしての環境を含めた条件設定が全く違う未知の種目として、スキーを選ぶことになりましたが、皆さんに「信じ難い」時には「奇跡だ」との評価をいただき、実際に全日本デモンストレーターやオリンピック選手を教えて、今日に至っています。

 その時、既にあるスキーの技術ではなく、人間と動物の身体のメカニズムや人間と地球の織りなす身体運動のメカニズムの研究そのものから創造開発した滑り方が、結局、この21世紀になって最新といわれる滑り方の本質をすでに先取りしたものだったのです。ですから、ベンジャミン・ライヒやボディ・ミラーなど、現在のトップ中のトップ選手が取り組んでいる滑り方の核心中の核心に、私自身が、20年前に既にスキーの素人ながら到達していたというわけです。始めて30日以前のころは、一般的なスキー技術を習得していないにも関わらず、ダウンヒルの競技選手と滑って置いてけぼりをくらわしたり、皆さんご存じの全日本デモンストレーター、全日本代表選手だった金子裕之選手にもそれこそ置いてけぼりをくらわしたりとなったわけです。

  • 高岡英夫スキー
  • スキーを始めて30日目の高岡英夫のパフォーマンス
    大腰筋を中心に腸骨筋、ハムストリングスを
    最高度に駆使したゆるスキーの滑り

編集部 かつてのスキーブームの時には、とくに若い世代、10代から30代ぐらいの方たちが夢中になってスキーに行っていましたが、なぜ昨今はそれほど行かなくなったのでしょうか?

高岡 それは、みなさんのおやりになったスキー技術がこのスキーという素晴らしい条件を活かすようなスキー技術ではなかったからです。先ほど地球の重力と雪という天の恵みを最大限利用するスポーツがスキーだと申しましたが、それが充分できていないのです。というよりむしろ、重力に逆らってしまっているのです。

 科学的に申し上げて、雪と重力に逆らっているとも言えるようなことをやっていたのが、あのスキーブームの時代の人たちだと言えるのです。つまり、厳しい言い方になりますが、日本人のほとんどのスキーヤーは、雪と重力という条件に逆らってスキーを習ってきて、私が申し上げたスキーの良さを全く味わっていないということになるのです。

 具体例を挙げてみましょう。皆さんはスキーをやると筋肉痛を起こすでしょう。しかも、それはおそらくももの前ではないでしょうか。それは大腿四頭筋といいます。これまでのスキー技術では、落下しようとする運動を制御する、即ちブレーキをかけて減速するのがスキー技術の根幹であるということになっています。つまり、滑りやすい雪という条件、地球に向かって身体を引っ張る重力という条件に全く逆らうことをやろうとしてきたのが、今日までのスキー技術なのです。ですからブレーキの役目を果たす大腿四頭筋の筋肉痛を起こすのです。

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ゆるスキーで味わえる深い快適感とメカニズム

ところが、私がスキーをしても、大腿四頭筋の筋肉痛は全く起こしません。実は私が開発した「ゆるスキー」をやると、皆さんにも大腿四頭筋の筋肉痛は起きません。ほとんど全ての方がそうです。筋肉痛を全く、微塵も起こさないという方もたくさんいます。

彼らが一様に何と言うかというと「スキーがこんなに気持ちがいいものだとは思わなかった」と言うのですよ。過去の体験と比較し、10代から20代の一番元気盛りのときに滑った自分の滑りより、中年あるいは初老になって滑った自分の滑りの方がはるかに気持ち良いと言うのです。

ここで、人間の身体のメカニズムの真髄をお話ししましょう。私もスキーをやって筋肉痛を起こしたことがあります。それはどこかというと大腰筋です。その外側の腸骨筋も筋肉痛を起こしたことがあります。ハムストリングスが筋肉痛になったこともありましたが、大腿四頭筋については、1kmのコブ斜面を20本休みなく滑っても全く筋肉痛を起こさなかったのです。50代の人間がですよ。

実は、ここからが面白い話になりますが、大腰筋を駆使すると、大腰筋が筋肉痛を起こすほどの動きをすると、人間というのは最高に快適感を感ずるようにできているのです。大腰筋ほどではないのですが、ハムストリングスも同じです

大腰筋と外側の腸骨筋を合わせた腸腰筋、そしてハムストリングスを駆使するような動きをしていると、心理的に最も深い快適感が得られるようなメカニズムが、遺伝子の段階から人間には具わっているのです。ですから武術の達人が超絶したパフォーマンスを行う瞬間や、スポーツ選手が世界記録を達成したり、オリンピックで優勝するほどのパフォーマンスの瞬間は、このメカニズムにより最高に快適なんですね。

身体のメカニズムで言うと、大腰筋を中心に腸骨筋、ハムストリングスを最高度に使えるスキー技術が存在するかどうかが鍵です。実はゆるスキーは、そうなるように、スキー技術の条件設定がされているのです。即ち人間の身体と心本来のメカニズムに基づいてスキー技術をつくり上げたのです。当然の事ながら、スキー史上初めての考え方です。

同じ事実を逆の方向から語ると、スキーの持っている素晴らしい諸条件、天からの恵みで斜面に降り積もった雪の上を滑る、そのことによって地球の重力を最高度に利用する、この条件設定と全く適応した身体運動を行うのが、即ち大腰筋とハムストリングスを駆使する動きなのです。これらは実に見事に符合します。

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スキー全盛期のいわゆる「根性スキー」の影響

一方大腿四頭筋を過度に使うような、日本中で行われてきた従来のスキー技術は、人間の方に向かって言えば、身体から発生する不快との戦いなのです。心理的に大変に抵抗が生まれる中で、その抵抗に打ち勝ちながら滑らなければいけないという極めてストレスフルな心理状態になるのです。だからこそ「根性」とか、「頑張らなくちゃ」とか、「くそー負けてたまるか」とか、そうした思いが生まれてくるのです。我が身を振り返っていただくと、スキーをしながらそうした思いを抱かれたことがあるのを思い出されるのではないでしょうか。

次に、環境から見た場合、従来のスキー技術は環境がそもそも持っている素晴らしい条件、地球の中心に向かって重力が働いているというこの宇宙の根本条件と、天からの恵みである雪に相対的に逆らった条件ででき上っているのです。

ですから、従来のスキーは真に快適だからという理由では行われて来なかったのです。根性やラフな体力を鍛えるとか、何らかの物珍しさとか、丁度日本の高度成長期と重なったからとか、あるいは企業の極度の商業主義、さらにマスメディアに乗せられたからとか、そのような理由で行われていた傾向が強いのです。

そういう意味でどなたも、即ち社会全体が、スキーというものの本当の魅力をまだ体験していないのです。未知なるままブームも去り、スキーを行う人が極めて少なくなった。スキー場は本当に閑散としてしまった。全国で休眠状態になったスキー場は相当数あるでしょう。以前に私が得た情報では、スキー場の数は、600ヶ所位と聞いています。何とももったいない話ですね。

このもったいなさというのは、スキーという環境・文化がすでに作られて存在するということに対してのもったいなさもありますし、一方、スキーが人間の身体の真理、心の真理というものを体現するのに最も適したスポーツであるにも関わらず、そのことが活かされていないというもったいなさでもあります。全スポーツ種目の中で、スキーが大腰筋と心の関係を最も開発しやすいスポーツなのにです。

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ゆるスキーは「魚類」の波動運動を復活させる

このことをまた別の角度からお話しすると、魚が大海原を回遊しますね。マグロほど大きい魚ではなくとも、鰹や鯖程度の魚でも数千キロもの長さを回遊しているのですが、魚が泳いでいるのを見て、「なんて気持ち良さそうなんだろう」と皆さんはお思いになったことがあるでしょう。私たちは約4億年前は魚だったわけですから、人はいつも直観的にそのことを感じているはずなのです。

その後魚類は陸に上がり、しばらくの間は魚と同じ様な運動構造を持っていました。やがて四足動物に進化して、脊椎の波動運動の方向は90度変換されましたが、やはり波動運動を行ってきたわけです。

しかし、直立二足歩行をはじめ人間になり、さらに現代は運動不足でストレスフルな社会になって、ますます身体が固まって、背骨を中心にした波動運動などは我々は全くできなくなっているのです。

ところがDNAでは、魚類の時代に開発した、基本運動としての脊椎の波動運動を我々は持っているのです。そしてそれを今日、全く使わない状態でいるわけです。

この観点から言うと、私の開発したゆるスキーほど、この魚類時代の脊椎の波動運動を復活させるのに適した種目は、全人類の文化の中でも他には絶対にありません。ゆるスキーは、この点でも画期的なものなのです。

魚類は基本的に水平方向の運動を行います。ゆるスキーでは、立った状態即ち地面に対して垂直の状態で脊椎の波動運動を行う、つまり魚のように泳ぐのです。そうすることでスキーのターンが生まれ、まさに抵抗のない、地球の重力と雪の斜面を活かし切った運動が生まれるのです。だからこそ極めて高速で、なおかつ深いエッジが効いて、深いバンクを掘って深いターンが生まれます。魚が水平に泳いでいくように板が水平に蛇行運動を繰り返しながら、快適かつ超高速で滑っていきます。人間が魚類に返ることができる瞬間だと言えます。そこに信じがたいほどの気持ち良さが生まれるのです。


そしてその結果どうなるかというと、非常に安全なのです。ブレーキをかけて、スピードが出ないようにしながら、即ちエッジがずれ落ちながら安全を確保しようとするのではなくて、自由自在にきわめて安定した深いターン弧が描けるという運動能力があるから安全なのです。ですから、予想外に不意に人が現れた瞬間などによくわかるのですが、以前のスキー技術ではその瞬間にブレーキをかけたり、跳んでしまうわけです。ところがゆるスキーでは、ターン弧の深浅左右を一瞬にして変えて、ベッタリと雪面に密着したままスルリとして抜けてしまうのです。障害があっても極めて楽にかわして何もなかったのかの如く先に滑っている、という状態になるのです。

 これをまた別の角度から申し上げると、それは、ゆるスキーがアルペンのワールドカップのトップ中のトップ選手達が取り組んでいる技術の根幹中の根幹部分を体現しているからこそ、当然のようにスルンと抜けていけるということになるのです。アルペンスキーはまさに障害をスルリと抜けていく競技なのですから。

ゆるスキーは加速に継ぐ加速のスポーツで、直滑降より速いのです。これは私自身の滑りを収録しているDVD『ゆるスキー革命』(運動総研刊)の中にも、私がゆるスキーの技術で直滑降のスキーヤーを追い抜いていくシーンが映っています。

※DVD『ゆるスキー革命』(運動総研刊)は、武術の極意である「ゆる」の解説と「奇跡の滑り」を可能にした超快適高速レールターンの実演に加え、5段階の雪上ゆるスキートレーニング法の実技指導内容が収録されています。(運動総研刊旧『脱力のスキー』と同内容です)
クロネコヤマトのブックサービスでお求めいただけます。書店では購入できません。

 しかしあの映像では本当の基本の技術だけを使ってやっていますから、実際にターンしながらさらに加速に加速を重ねていく技術、さらにその上に重なり合う多くの技術がゆるスキーには存在しますから、それを使うとさらに速さは増していきます。

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スキーで家族の結束力&家庭力も強まる

 次は、家族にとってもスキーは最高、という話をしましょう。家族・家庭崩壊の危機が叫ばれています。また実際に家庭が崩壊しないまでも、家庭の力、人や人の心を育んで人間関係の力を育てゆくという家庭の根本の役割、それが崩壊、あるいは弱体化してきていることは明らかです。 家族によって育まれる、人間の基本的な心の力は極めて大切で、これが人間関係をつくる根本的な力、ひいては人間関係の総体である、社会の根幹をなす力になるのです。

 ですから、この家族の力、家庭の力を取り戻すことは急務ですし、何を差し置いてもやらなければいけない重要なことです。そのためにスキーは最高に役に立ちます。ぜひ子供を連れてスキー場に行って欲しい。そのときには、ぜひお父さん、お母さんが子どもにスキーの手ほどきをして欲しい。スキー靴を履き、スキーの板を持ってゲレンデでスキーの板を履く、そして滑る。一番最初のプルークボーゲンのできるところ、滑った後はもちろんスキーをしまう、家に帰ってきたらスキーの服を整理する、干す等々、色々な作業があるけれど、正にそういったところまで全部セットにして、親子で一緒にやれるのが非常に良いのです。

 スキーは道具も大変多く、手間のかかるスポーツです。そしてまた雪のある環境で行うのですから、道具の扱いがスムーズにできないと、冷たいわけです。下手して手袋が濡れてしまったりすると、冷たくて子どもにとっては本当につらいものです。 わざわざそうした厳しい環境で、しかも手間のかかる、段取りの必要なスポーツですから、極めて家族の結束が強まるのです。上手く持っていくことができなければ、かえって仲違いになってしまう、「いやだ、こんなのー」ということになってしまいますから、上手くやらないといけない。家族の力を高めるには、親は賢く、段取りを良くしないといけないのです。

 さらに、ゆるスキーを親が体現し、一緒にやり、子どもにゆるスキーを一緒に滑りながら教えてあげる。それは本当に意味があります。ですから、子どもとスキーをやるのは、厳しくかつ複雑な段取りを何とか親子で知恵を働かせて、特に親が知恵を働かせて、子どもにきちんと教えてやらせる。やれるようになった喜び、達成感、そこには様々な知的な工夫や知的な努力があるのです。

 ですから、賢くて段取りをつけることのうまい親に教わった子ほど、やはりスキーを履くのが上手い。リフトに乗るまでのちょっとした坂を上がっていくのも、リフトの乗り方も上手くなります。さらに、危険も減るし、快適になります。要するに何から何までキッズスクールに頼ってしまうのではなくて、スキーが持つ良い環境条件を最大限活用して、家族でやれることは家族でやることによって、より快適な子どもの総合的なスキー能力というものをつけてやることができますし、そのことが家庭の教育力、家族の結束力そのものを育てることになるのです。その上でスクールを利用するのが、賢い親というものです。

編集部 そんなふうに教わったら、親のことを尊敬しますね。

高岡 その通りです。子供にとってインプリンティングになるわけです。親の方もうれしくなりますよ。子どもが板を迅速につけられ、親を置いてけぼりにしてサッサと滑るようになる、さらに快適にゲレンデを飛ばすようにでもなれば、親の目がさらに細くなるわけでしょうね。もっとも、ゆるスキーを親が身につけたら、子供に置いていかれるということ自体がなくなりますけどね。

編集部 家庭を持つ身としては、極めて大切な、そして希望の持てるお話を伺いました。今は「一家を率いていく親」が本当に少数になってしまったように思います。皆さん家庭の中でよく言えば友達同士のような、悪く言えば全く尊敬されていないような.......そういう親ばかりになってしまったんです。スキーに取り組むことでそういうことの根本的改善に一歩を踏み出すことができるのですね。

 さて、少し射程を広げた質問をしても良いでしょうか。ゆるスキーと身体意識の関係について、教えていただけませんでしょうか。

高岡 少し専門的になりますが、お話ししましょう。私がよく書いているように、優れた身体意識というのはゆるんだ身体にこそ芽生えるものです。仮に、ゆるんで何もしないということがありえたとすると、それだけでは芽生えません。ゆるんだ身体で身体運動をしたり、難しいことにチャレンジすることで身体意識というのは育つのです。さらにゆるスキーの場合は、ゆるんだ身体でスポーツをするだけに止まらず、スポーツをすることでさらにさらに深くゆるんでいくのです。つまり、ゆるスキーをすることで、陸上の条件よりもさらにゆるんでいくわけです。

 ですから理想的に身体意識が育ってくると言えます。中でも代表はセンターです。センターもまず中央軸が育ってきます。さきほどもお話ししたように、ゆるスキーは地球の重力を最高度に利用するわけですから、垂軸が育つのです。人間の身体の中央に通る軸は、垂軸と体軸からなるのですが、垂軸は地球の中心に向かう重心線に沿ってできるものですから、垂軸がゆるスキーによって強力に育つのは必然です。

 さらに、ゆるスキーでは背骨の波動運動を行いますから、背骨に沿って形成される体軸もできてきます。つまり垂軸と体軸とが両方形成されてくるのです。

 さらに、スキーでは2本の板を履くことが面白い効果を生みます。2本の板、4つのエッジ、つまりほとんどの場合同時に左右のエッジを一本ずつ計2本を使っています。

 普通のスキーでは、身体を固めてやるわけですから、股関節が自由に働かず、従って側軸は育ちません。ところがゆるスキーでは、仙腸関節と周り中の筋肉をゆるめて、左右の股関節がバラバラに自由運動をするように滑っていきますから、側軸の形成効果が極めて高いのです。

 『ゆるスキー革命』中の私の滑りを見ていただくとわかる通り、中央軸も側軸も協力的に形成され、強力に働いています。こういう滑りになるのです。

 さらにスキーは、雪面に対して平行に動いていく性質があります。つまり、ターン弧を描いていく動き、雪面をトレースする運動を行うと、レーザーやスライサーが発達します。垂直系の中央軸、側軸に対して、レーザーやスライサーという水平系の身体意識が発達するのです。そしてこれらの身体意識と連動して、上中下の三つの丹田も発達してきます。

 こうした垂直系と水平系の身体意識は全身体意識の中の根幹だと言えます。身体座標空間の軸に沿ってにできるわけですから、ゆるスキーの身体意識形成効果には、他にはめったに存在しない奥深さがあることになります。仙腸関節が開く、肋骨がバラバラに使えるようになる、さらに肋骨から重みを板に通して雪面に伝えていく、などの動きを通して、肋骨の運動も非常に発達します。さらに身体意識のクオリティ成分の基本である「重」も極めて良く発達し、それにより、特に下丹田の形成が促進されます。

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より優れた”本来の自分”を発見

編集部 つまり、人間にとって最重要の身体意識を開発するためにスキーをやる、ということもあるということですね。

高岡 正にその通りです。


 私が声を大にして申し上げたいのは、スキーをしたことのある皆さんに、ぜひ知って欲しい一つの事実です。それは皆さんがやってきたスキーは、本来のスキーでないということです。自分の身体の真理に逆らい、折角のスキーという環境条件に逆らった、ストレスフルな行為に止まるものだったということです。

 ですから、ぜひスキーに復活して下さい。そのためには「ゆるスキー」があるのです。ゆるスキーはそのために存在する新しいスキーの原理であり根幹的技術だというふうに考えていただいて正しいのです。

 ゆるスキーの登場によって、スキーはよりその種目の本質に近づいていくと言えるでしょう。また、スキーを若い頃に全くやらなかった方とか、あるいは今若い方で、スキーを全くやっていないという方々にもぜひおすすめします。

 スキーを始める、そのいの一番からゆるスキーでやるのがいいのです。ゆるスキーのやり方はプルークボーゲンの段階からすでに違いますから。身体をゆるめて、プルークボーゲンを覚えていく。ゆるプルークです。これがまた、素晴らしく気持ちよいのです。


 ゆるスキーに取り組むことによって本当に優れた自分を開発し、優れた自分に出会い、そして優れた自分の機能を高めて都会に帰って来るのですから、家庭や職場に戻ってくると調子も絶好調ということになります。それだけのことに挑戦することによって、当然疲労もありますが、それ以上に高まった、より優れた自分に出会い、自分の能力を新たに発揮するということのメリットは、大きいですね。

 ぜひ皆でゆるスキーをやりましょう。

編集部 お話を伺うことで、ゆるスキーが私の想像よりもはるかに壮大なスケールを持った、そして実に本質的な効用を持つスポーツ理念であり技術だということが分かりました。本日はありがとうございました。

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