高岡英夫「究極の身体」

取材時の経験と「寝臥位センター錬成法」の受講経験が、「想像を超えてゆるんでいいんだ！」という“気付き”をもたらした

高岡　そうすると、何が起きてくるかというと、「あ、オレなんかが想像を超えるぐらいゆるんでいいんだ」ということに気付くわけだよ。
　こうした、ある程度進んできている人間の根底的な認識や納得というのは、ある種の悟りといった方がいいかもしれないね。

クラゴン・藤田　おお～。

高岡　だから、これは大きいよね。
　そしてその前提となるのが、あの月刊秘伝の「ゆるとは何か」の取材時の経験なんだよ。
　各論でいえば、「自分の思ったところまでゆるめていく」という、あの作業経験。その経験が大きな土台となって、そのうえで、「寝臥位センター錬成法」を受講したわけだよね。
　「寝臥位センター錬成法」で、とにかく寝たまま、しかも寝そべっているだけでもだらしがないのに、少しでも普通の大人がやるようなちゃんとしたトレーニングをやると、注意をされてしまうんだから。

クラゴン　ちゃんとすると怒られちゃうんですよね（笑）。

高岡　そうだよ（笑）。「おい、赤ちゃんは、手なんてきちんと合わせて動かすことなんてできっこないじゃないか」って具合にね（笑）。
　だけど、大人の人が「寝臥位センター錬成法」に取り組むと、必ずといっていいほど、すぐにきちっと手を合わせて動かそうとしちゃうんだよな～。

クラゴン　なぜだか、自然とそうなっちゃうんですね～。

高岡　ハハハッ、なぜだか不自然とそうなっちゃうんですね～、だろう（笑）。だから「赤ん坊は、そうやって手を合わせられないだろう」っていうと、みんなすごく戸惑うんだよね（笑）。
　「え～、こんなだらしなくっていいんですか？」って顔をしていても、私に言わせれば「まだまだダメだよ。赤ちゃんはそんなにしっかりしていないよ」ってことになるんだよね。みんな全然大人っぽくて固いんだよな～。

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• 「寝臥位センター」は、赤ちゃんのようにだらしなく取り組むのがコツ

クラゴン　ははははは、講座の様子を思い出しちゃいました（笑）。

高岡　不安になるぐらい衝撃的だったでしょ？

クラゴン　はい。かなり強烈な洗礼でした！

人が立てるようになるのは、骨を格付けしていった結果ではなく、センターが育ってきたことによるもの

高岡　でも、その不安なワークを乗り越えて（笑）、立ち上がった時はどうだった？

クラゴン　立つと、もうセンターがワーッと通っているんですよね。だからワークの衝撃と同じぐらい、成果の衝撃も大きかったです。

高岡　あれが大きいんだよ。
　いまならクラゴン自身も良くわかると思うけど、それ以前のクラゴンだと、そこのところが、やっぱりまだわかっていなかったんだよね。
　つまり、それまでのクラゴンの認識だと、「ゆるんで立ち上がるセンターというのは、ある程度ちゃんとしていないといけないんですよね」って感じだったわけだろ？

クラゴン　あっ！　そうです、そうです。たしかにその通りでした。

高岡　だよね（笑）。
　そこでもう一度、ポルシェで参戦したときの車載映像を見直してほしいんだよ。
　ポルシェを運転中のクラゴンの身体を、バイオメカニクス的に分析すると、いま言ったような結論になるんだよ。

藤田　それが「骨をちゃんと格付けして使おうとしている」ってことですね。

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• アウディのドライビングと比べると、前年ポルシェで参戦したときは、
  骨をちゃんと格付けして使おうとする割合が高かった

高岡　そういうこと。
　「それぞれの骨に、格をつけてちゃんと積み上げていく」というのは、生まれたての赤ちゃんが本当に必須不可欠ギリギリのところで、３カ月、半年、１年と時間をかけて、やがて立ち上がれるようになるまでにやっていく作業そのものじゃないか。
　その作業とともに、人間のセンターというのは立っていくものなんだけど、ここで極めて肝心なことは、人は骨を格付けしていった結果立てるようになるのではなく、じつはセンターが育ってきたからこそ立てるようになるということなんだ。
　つまり、赤ちゃんは寝転がった状態のまま、数カ月にわたってセンターを鍛え続けているんだよ。そうすることで、ものすごく素晴らしいセンターが身に付いて、体幹部をきれいに貫く、その優れたセンターにしたがって、骨を格付けしていくので、はじめて立ち上がれるようになったときの骨の格付けの仕方というのは、理想的な状態なわけだよ。

クラゴン　納得です。

人が赤ちゃんの時に体現できたはずの「立ち上がるセンターに身を任す」立ち方ができなくなってしまうのは……

高岡　それが最高、最良の状態なんだから、そこでやめておけばいいのに、ほとんどの人はより立派に、よりちゃんとしようと、どんどん格付け作業にはまっていって、赤ちゃんのときには体現できたはずの、本当の意味でゆるゆるにゆるんで、「立ち上がるセンターに身を任す」立ち方ができなくなってしまうんだよね。
　とはいえ、全員が全員そうなってしまうわけではなく、大の付く天才や達人と呼ぶに相応しい、ごく一部の例外は、大人になっても赤ちゃんのような立ち方を維持できている。
　近現代人でいえば、私が「究極の身体」（講談社刊）で紹介した、中国武術の意拳の創始者、王薌齋師と、大東流合気柔術の佐川幸義師。そしてNidoさんの日本舞踊の師であられる、天才中の天才、花柳壽惠幸師と。この三人の方は、名横綱の名を欲しいままにしてきた、かの双葉山以上の存在だからね。
　まさに、大人になっても赤ちゃんのようにべろべろにゆるんで立っていたのは、この三人ぐらいしかいないでしょう。

クラゴン　べろべろの道は険しそうですね。

高岡　はははは。
　もっとも、私だってゆるんでセンターが立っているんだけどね（笑）。
　ただ、私の場合はクラゴンと違ってレースになんて出場していないので、レースをやっている最中にセンターが立っているわけではなく、普段の生活の中で一貫して、つまり仕事中も、食事をしているときも、移動中も、入浴中も、就寝中もとにかく四六時中センターが立っているわけだよ。
　そうした中で、別に年がら年中クラゴンのことを考えているなんてことは、当然あり得ないんだけど（笑）、ともかくそうしてセンターが立ちあがっている状態で仕事等を行っているときに、クラゴンの意識を捉えることがあるんだな。
　とはいえ、顕在意識でクラゴンのことを意識しているわけではなく、すでに語ってきたとおり、高いセンターを身に付けたことによる俯瞰する力の中に、クラゴンが入ってくるといった方がいいかもしれない。そしてそれは当然、無意識での話になるけどね。

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• 普段の生活の中で四六時中ゆるんでセンターが立っていると、
  その高いセンターによる俯瞰する力でクラゴンの意識を捉えることも

クラゴン　え～、そうすると、ひょっとしてボクのことを高岡先生が俯瞰していたからこそ、あの時期に「寝臥位センター錬成法」を開催してくださったりしたわけですか？

高岡　う～ん、そうかもしれないね（笑）。

クラゴン　それはありがとうございます！

「手首プラプラ体操」や「足ネバネバ歩き」などの操作系のワークは、「寝臥位センター錬成法」と組み合わせるのが理想的

高岡　もっとも、実際のところはさっき言った通り、クラゴンを意識するのは無意識下での働きだったはずなんだけどね。
　今度のアウディでのレースでのパフォーマンスを振り返ってみたときに、まず、クラゴンが何度か受講している、手首プラプラ体操の徹底能力開発の講座があって、その講座を受講していたからこそ、秘伝誌の特集の取材でもさらに徹底的に手首プラプラ体操を行って、もっと深いところまで開発が進み、そのレベルに合わせて、「足ネバネバ歩き」も教えたわけだよね。
　あの流れに持っていったのは、直観的に「クラゴンには、ここのところまでの刺激をしておいてやった方がいいな」というものがあったからなんだろうね。
　でも、「手首プラプラ体操」も「足ネバネバ歩き」も、すごく操作系のワークだろ。手足から全身体を細かいところまで意識して、身体を動かしながら使い分けていくんだから。

クラゴン　たしかに操作系といわれれば操作系なのかもしれませんが、秘伝誌の特集での実験結果のとおり、絶大な効果があることを身をもって勉強させていただきました。

高岡　うん。もちろん、絶大な効果があるのがわかっているから指導したんだけど（笑）、でもあれだけだと、変な方向にはまっていくリスクもちょっとだけあり得たんだよ。

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• 「手首プラプラ体操」や「足ネバネバ歩き」など操作系のワークは
  絶大な効果があるが変な方向にはまるリスクも……?

藤田　変なリスクというのは？

高岡　操作系の意識というのは、どうしても顕在意識を積極的に使って、身体を分析的に分けて入って行くことになるよね。
　だからそれをベロベロゆるゆるにゆるんで統一させるような、底抜けにポワ～として、勝手にセンターが立ちあがっていってしまうような、そういう身体意識が同時にあると、もっと理想に近づけるんだよ。
　その理想の状態を体現するのに、最適だったのがまさに「寝臥位センター錬成法」だったわけ。
　「寝臥位センター錬成法」のメソッドそのものは、もう何十年も前から温めてきたもので、私自身にとっても、いわば“秘宝”みたいなものかな。

クラゴン　高岡先生の“秘宝”を開示してくださったわけですか！

高岡　まあ、そういうことになるかな。

講座にトレーニングを学びに来る人たちは、本質的な意識レベルでつながり合いながら一つの上達の流れをつくっている

高岡　とはいえ、ずっと墓場まで持っていこうと思っていたわけではなく、いつ公開しようか、その時期を探っていた段階ではあったんだ。
　それで、ちょうどあの頃に満を持して公開することにしたんだけど、クラゴンからすれば、まさに「ひょっとして、自分のために教えてくれることにしたんですか」ってことになるタイミングだったといえるだろうし、そういう質問を受けたのなら、「そうかもしれないね」と答えるしかないかな。

クラゴン　いや～、それは恐れ多いというか、ありがたいといいますか……。

高岡　だけど、あの時期に「寝臥位センター錬成法」は、「まさに自分のためにあるような講座だ」、と思った人は他にもたくさんいたわけで、そうした人たちから、「ひょっとして、この講座は私のために開いてくださったのでは？」と同じように聞かれたら、「う～ん、そうかもしれないね」って答えることになるんだろうけどね（笑）。

クラゴン・藤田　はっはっはっは（大笑）。

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• 「この講座は自分のために開催されたのかも？」と多くの人が思うのは、
  皆が本質的な意識レベルでつながり合って上達しているから

高岡　だからこう考えてほしいんだよ。
　ぜんぜん驚くような話ではないんだけど、なんだかんだ言って、私のところにきてくれて、私の考案したトレーニングを学んでくれている人たちというのは、やはり一つの上達の流れというものをつくっているはずなんだよ。
　本質的な意識レベルでつながり合いながら、当然独自の生活と行動をしつつ、また同時に共通のトレーニングをしつつ、上達していくという現象があるわけだよね。
　そういう意味で、クラゴンを含め、受講者一人ひとりのことをそれぞれ意識しているわけではないんだけれど、受講者一人ひとりが「ひょっとして、私のために？」と思えるのも不思議ではないし、それに対し「キミのためにといわれれば、そうかもしれないね」という私の答えも、あながち間違いではないし、ウソ偽りのないものだともいえるよね。

藤田　なるほど。そうだとすると、余計気になってくることが、ひとつあるんですが……。

第10回へつづく＞＞