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『究極の身体』を読む
身体の中心はどこにあるのか 【目次】

書籍連載 『究極の身体』を読む 身体の中心はどこにあるのか

  • 『究極の身体』を読む
    身体の中心はどこにあるのか
  • 運動科学総合研究所刊
    高岡英夫著
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第29回(2008.01.20 掲載)

身体と身体意識の中心

ここまでは身体と身体意識というものをあまりはっきりと峻別せずに「中心」について語ってきましたが、今度は身体と身体意識は違うという観点から、身体における中心と身体意識における中心ということについて考えていきたいと思います。

物体としての身体そのものと、身体を中心に身体自身を含むその周囲の身体空間に展在する身体意識というものとでは相対的に「中心」が独立した関係にあるのです。つまり強力に影響され合いながらも、じつは別々の存在だということです。なぜなら、身体意識は身体そのものではないからです。

「垂軸・体軸・斜軸」という写真を見てください。これは私自身のスキーの写真で、この写真に垂軸、体軸、斜軸という3本のラインを書き込んでいます。ご覧のとおり、写真は左ターンの最中ですので、このあとはターンを終えて直進状態に戻っていきます。すると写真では3本に分かれている垂軸、体軸、斜軸の3本のラインは、直進状態に近づくにつれどんどん1本に重なろうとしてきます。そして滑るのを止めてただ真っ直ぐに立った状態になると、3本の軸ははれて1本にまとまります。

  • 垂軸、体軸、斜軸
  • 垂軸、体軸、斜軸
  • クリックすると拡大画像がご覧になれます。

この3本の軸はいずれも身体意識の構造で、しかも身体意識の中でも「中心」と位置づけられる構造です。その中心的な3本が、止まって立ったときには1本にまとまってしまうわけですから、これは身体そのものでないことは明らかです。なぜなら、身体そのものがターンをしているときにはいくつかに分かれて、止まったときには1つになるということはありえないからです。脛の中の骨は、ターンをしているときも脛骨・腓骨の2本ですし、止まっているときもその数は変わりません。同じように腰椎もターン中でも停止中でもいつでも5つ存在して、その数は普遍です。

ところが身体意識の世界では、3本が2本になり、2本が1本になるというのが日常茶飯事になっています。いうなれば、これが意識というものの特性なのです。

一方、身体はどうなっているかといいますと、たとえば股関節を見てください。股関節はいわゆるヒンジ構造をしております。ヒンジ構造はある種の中心ですから、仮にヒンジ構造=中心といってしまえば、股関節に限らずヒンジ構造の接面になっている、膝や足首etc.の全身のあらゆるところが中心といえます。このヒンジ構造というのは、ドアなどを見れば明らかなように、物と物がお互いに動きあって変動するという意味での運動上の中心ですので、非常に分かりやすいと思います。

また一方で、力を支える、あるいは支持するという意味での「中心」というものも存在します。この場合、ヒンジ構造のように変動的かどうかよりも、そこにどれだけ大きな力がかかるかが重要になってきます。あるいは、そこに力が集まって、その先で分散していくところも「中心」といえます。たとえば鉄道のポイントなどを思い出してください。1本の線路が2本に分かれるポイントは、やはり中心的といえるはずです。

人体でいえば首から腰まで1本につながっている背骨が、2本の脚に分かれていく仙骨・股関節付近がちょうどポイントのような岐路になっています。したがって物体としての身体として見ると、その岐路は間違いなく中心といえます。また力学的に見ても2本の脚で支えていた上半身の重みをここからは1本で支えるようになるわけですから、やはりここは中心といえます。ただ仙腸関節は完全な関節ではなく、骨盤も左右に分かれているようで下部はつながってしまっています。だからここで完全に二つに分かれたわけではなく、1.5分割的な岐路ともいえます。ただし、この部分も“究極の身体”に近づけば近づくほど仙腸関節の自由度が増し、より2分割化してきます。

一方、股関節は仙骨・骨盤で2つに分かれた力を2本の脚で支えているだけなので、そういう意味では中心度は低いともいえます。しかしヒンジ構造としての中心の役割は非常に大きいものがあります。また一本の背骨が仙骨・骨盤で1.5に分かれ、股関節で完全に2つに分かれると考えれば、やっぱり岐路としても重要な中心のひとつといえます。

このように本当に純粋に身体を見ていくと、骨格を見ただけでも中心と考えられる性質が何点もあり、それにしたがって分析していくと身体にはそこらじゅうに「中心」があるというのが分かります。そしてこの「中心」は身体そのものの「中心」なので、基本的に変わらない性質を持っています。しかし、先に説明した腹筋運動中の腰椎の「中心」の実験でも分かるように、その重要性はどういう運動をしているかによって即座に変わってくるのです。

というわけで、身体そのもののなかにある「中心」ですらこのように変わってきてしまうのです。

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