ホーム > 第23回 高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」 WBC特集 侍ジャパン編

高岡英夫の対談
「トップアスリートを斬る」

【文中で紹介された本】

高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」WBC特集

  • 高岡英夫
  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。
  • 松井浩
  • 松井浩[聞き手]
  • 早稲田大学第一文学部在学中から、フリーライターとして仕事を始め、1986年から3年間「週刊文春」記者。その後「Number」で連載を始めたのをきっかけに取材対象をスポーツ中心にする。テーマは「天才スポーツ選手とは、どんな人たちか」。著書は「高岡英夫は語る すべてはゆるむこと」(小学館文庫)「打撃の神様 榎本喜八伝」(講談社)等。高岡英夫との共著に「サッカー世界一になりたい人だけが読む本」「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」「サッカー日本代表が世界を制する日」(いずれもメディアファクトリー)、「インコースを打て」(講談社)等がある。

第23回 岩隈久志(1)(2009.04.22 掲載/2009.10.16 DS図公開)

  • 岩隈久志のDS図
  • 岩隈久志のDS図
  • クリックすると拡大画像がご覧になれます。

――今回からは「WBC特集」ということで、岩隈久志、松坂大輔の両投手、それに青木宣親選手の3人を順番に取り上げたいと思います。第1回は、日本(侍Japan)の2連覇に最も貢献したと評価の高い岩隈です。救援失敗などもあり、記録上は1勝しかあげられず大会MVPこそ3勝を挙げた松坂(14回2/3で4失点)に譲りましたが、岩隈も通算20回を投げて失点はわずかに3と抜群の安定感を誇りました。15回以上投げたWBC出場投手の中で、最も防御率の良かったのも岩隈でした。

高岡 今回のWBCは2回目で、どの国も日本の連覇を阻止しようとかなり真剣に取り組みましたよね。その厳しい戦いの中で、岩隈は、全出場投手の中でも抜群の成績を残したわけです。MVPを受賞した松坂が、「岩隈君に悪いな」と言ったんでしょう。つまり、今回のWBCという短期決戦で、岩隈は世界一の投手になったと言えると思うんですね。では、その短期決戦世界一の投手が、どんな身体意識をしているのか。別の言い方でいえば、彼の素晴らしいピッチングを支えたものは、いったい何だったのかについて明らかにしていきたいと思います。

※「身体意識」とは、高岡が発見した身体に形成される潜在意識のことであり、視聴覚的意識に対する「体性感覚的意識」の学術的省略表現である。『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)のはじめに(1ページ~)、序章(17ページ~)や『身体意識を鍛える』(青春出版社)の第2章「達人たちの〝身体づかい〟7つの極意を知る」(45ページ~)で詳しく解説しています。

――それでは、身体意識の観点から見て、岩隈の最大の特徴は何だったのでしょうか。

世界一のピッチャー岩隈の最大の特徴は、見事な「センター」が通っていること

高岡 一番の特徴は、見事な「センター」ですね。

※センター(中央軸)とは、身体の中央を天地に貫く身体意識。『究極の身体』(講談社)の第2章「重心感知と脱力のメカニズム」(49ページ~)や『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)の序章(17ページ~、第1章「センター」(45ページ~)で詳しく解説しています。

――やはりセンターですね。これは、身体意識を勉強している人や、スポーツ選手を見る力のある人にはよくわかったと思います。WBCの岩隈を見ても、あのすがすがしい表情はセンターが発達している人の特徴でしたし、立つ姿や歩く姿の美しさ、それにピッチングフォームでいえば、右の軸足で立った時の美しさも、センターの発達している人の特徴ですね。

高岡 WBCの岩隈は、誰が見てもすぐにわかっていいぐらい見事なセンターが相当に発達していたということですよ。

――また、これまでの高岡先生の分析を見ても、五輪や世界選手権でメダルを獲得した柔道の上村春樹さんやシンクロナイズドスイミングの奥野史子さんたちの証言からも、野球のような人気スポーツの世界大会で、あれほどの活躍をしようと思えば、センターが相当に発達していなければ難しいですよね。

高岡 その通りです。球技でいえば、野球は、サッカー、バスケットボールと並ぶ世界三大球技ですよね。その野球のNo.1ピッチャーが、センターが発達していないというのはあり得ないことです。だから、この後の話も、そのセンターについてさらに細かな分析になっていきますけれども、よろしいですか。

――はい。お願いします。

中央軸の「第3軸」に加えて、身体の背面に沿って天地を貫く「第4軸」も発達している

高岡 ここまでの話では、用語として「センター」という言葉を使ってきたわけですが、私の研究では、その「センター」という身体意識にも、「中央軸」と「側軸」の2種類があります。そのうちの中央軸は、身体の中央を天地に貫く身体意識のことで、さらに中央軸、側軸各々にも身体の前面に沿ってできる第1軸から、身体の背面に沿ってできる第4軸まで4種類があります。野球でもそうですが、その他のスポーツや武道・武術の世界で「軸」や「体軸」、「正中線」などと呼ばれているものは、そのほとんどが、私のいう「第3軸」のことを指していると言っていい。私の研究でも、4本の中央軸の中では、第3軸が基本であり、最も重要だということが分っています。岩隈は、まずこの第3軸が見事に発達していて、なおかつ、その第3軸を支える第4軸もきちんと通っているのが大きな特徴です。

――さすがに、岩隈レベルになるとセンターも一本では収まらない話になってきますね。最も重要な第3軸は、ほぼ背骨の前側に沿って天地を貫くように形成される身体意識ですよね。そして、第4軸は、身体の背面に沿って天地を貫く身体意識ですね。

4本の「側軸」も、身体の背面に沿って天地を貫いている

高岡 ただし、現実には、体の背面は背骨がS字曲線を描くように出たり、へこんだりしているでしょう。だから、厳密にいえば、第4軸は皮膚より中に入ったり、外に出たりしているんですけどね。それから、岩隈の場合すでに指摘したように、前後ばかりでなく左右に展在する「側軸」も発達しているんです。

※「側軸」とは、「中央軸」の左右に発達した天地に貫く身体意識。イチローの「側軸」については『インコースを打て 究極の打撃理論』(講談社)「第4章 運動科学による分析」(276ページ~)で詳しく解説しています。

――側軸というのは、中央軸の左右にあって、やはり天地を貫く身体意識ですね。

高岡 そうです。岩隈の場合、その側軸の中でも、「第1側軸」と「第2側軸」が発達しています。第1側軸は、中央軸のすぐ横にあって、中央軸の回りをゆるめズレるようにすることで中央軸を働かせたり、中央軸の代わり軸にもなるものです。そして、第2側軸はさらにその外側にあって、股関節を通って天地を貫く身体意識です。それぞれ中央軸の左右に合わせて4本の側軸が発達しており、それらの側軸は、全て身体の背面に沿って形成されているんですよ。つまり前後で見れば第4軸になります。複雑になって申し訳ないんですが、第1側軸の第4軸を「第1側4軸」、第2側軸の第4軸を「第2側4軸」と、専門的には表記するんですけどね。

――それらの身体意識は、具体的には、岩隈のどんなところに現れているのですか。

高岡 その答えは、次回に掲載しますが、それまで読者の皆さんにはちょっと遊んで頂ければと思います。岩隈の場合、中央軸の第3軸(背骨の前側に沿って天地を貫く)と、左右の股関節の間に、身体の背面に沿った計5本(中央軸の第4軸と4本の側軸)が天地を貫いて通っているということです。そこで、読者の皆さんには、それら5本のセンターをイメージして岩隈になりきると、そうした身体意識の装置がどんな働きをしていたか感じてもらいましょう。そして、そこで自分が感じたことと、次回の私の解説とを比べてみてください。

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