ホーム > 第28回 高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」 WBC特集 侍ジャパン編

高岡英夫の対談
「トップアスリートを斬る」

【文中で紹介された本】

高岡英夫の対談「トップアスリートを斬る」WBC特集

  • 高岡英夫
  • 高岡英夫[語り手]
  • 運動科学者。「ゆる」開発者。現在、運動科学総合研究所所長、NPO法人日本ゆる協会理事長・推進委員。東京大学、同大学院教育学研究科卒。東大大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、オリンピック選手、芸術家などを指導しながら、年齢・性別を問わず幅広い人々の身体・脳機能を高める「ゆる体操」「ゆる呼吸法」「ゆるウォーク」「ゆるスキー」「歌ゆる」を開発。一流スポーツ選手から主婦・高齢者や運動嫌いの人まで、多くの人々に支持されている。大学・病院・企業などの研究機関と共同研究を進める一方、地方公共団体の健康増進計画での運動療法責任者も務める。ビデオ、DVD多数、著書は80冊を越える。
  • 松井浩
  • 松井浩[聞き手]
  • 早稲田大学第一文学部在学中から、フリーライターとして仕事を始め、1986年から3年間「週刊文春」記者。その後「Number」で連載を始めたのをきっかけに取材対象をスポーツ中心にする。テーマは「天才スポーツ選手とは、どんな人たちか」。著書は「高岡英夫は語る すべてはゆるむこと」(小学館文庫)「打撃の神様 榎本喜八伝」(講談社)等。高岡英夫との共著に「サッカー世界一になりたい人だけが読む本」「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」「サッカー日本代表が世界を制する日」(いずれもメディアファクトリー)、「インコースを打て」(講談社)等がある。

第28回 青木宣親(1)(2009.05.15 掲載/2009.10.22 DS図公開)

  • 青木宣親のDS図A
  • 青木宣親のDS図(1)
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  • 青木宣親のDS図B
  • 青木宣親のDS図(2)
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――WBC特集の3回目は、不振のイチローに代わり、日本で最も頼りになるバッターだった青木宣親です。実際に、青木は全9試合に出場して37打数12安打で打率.324、7打点という好成績を残し、外野手として優秀選手賞も獲得しました(イチローは決勝の韓国戦で4安打して通算打率は.273)。

175㎝という小さな身体で、外野手としてWBCの優秀選手を獲得できたのは太いセンターが発達していたから

高岡 青木は、日本のプロ野球選手としても小柄(175cm77kg)でしょう。そんな小さな身体で、WBCという大舞台で優秀選手賞を獲得したというのは、本当にすごいことですよね。最初は青木のことをよく知らないでWBCを見た人でも、しだいにこのお兄さんスゴイと思うようになったはずで、高い打率以上のところで皆さんの心が彼に釘づけなりましたよね。

――イチローが不振だったので、よけいに頼り甲斐がありました。

高岡 絶好調の頃のイチローと比べても、青木は決して華やかではないのですが、本当に頼れる存在になっていました。なぜ、青木がそういう存在になれたのか、それを身体意識の観点から見ると、太い「センター」が発達していたからです。

※「身体意識」とは、高岡が発見した身体に形成される潜在意識のことであり、視聴覚的意識に対する「体性感覚的意識」の学術的省略表現である。『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)のはじめに(1ページ~)、序章(17ページ~)や『身体意識を鍛える』(青春出版社)の第2章「達人たちの〝身体づかい〟7つの極意を知る」(45ページ~)で詳しく解説しています。

※センター(中央軸)とは、身体の中央を天地に貫く身体意識。『究極の身体』(講談社)の第2章「重心感知と脱力のメカニズム」(49ページ~)や『センター・体軸・正中線』(ベースボール・マガジン社)の序章(17ページ~、第1章「センター」(45ページ~)で詳しく解説しています。

――岩隈や松坂の分析でも触れたように、WBCレベルの国際大会で突出した活躍をしようと思えば、しっかりとしたセンターが通っていることが絶対条件ですね。でも、そのセンターが、青木の場合は太いんですか。

青木の活躍を支えた太いセンターは、中が空洞で筒状になっている

高岡 そうなんです。しかも、潜在意識として筒状になっています。つまり、センターの中が空洞になっているんです。

――えっ、センターが空洞なんですか。という話になってくると、そんなことがよくわかりますねと思われる読者もいるかもしれませんが。

高岡 確かにね。でも松井君だって普通のセンターや中丹田、下丹田の在り無しはわかるじゃないですか。

――それはそうでした。私がわかる位は、感覚の鋭いゴルフのインストラクターやスポーツ選手&コーチでもわかる人がいますもんね。

高岡 こればかりは鋭い感覚と身体の中まで見透す観察力をひたすら鍛え上げた結果ですからね。これには身体意識や身体のゆるみ方に対する正確な知識を持つことも、役に立つことはいうまでもないことですけど。

 私の場合、研究者として正確な知識を持ってますし、指導者として鍛え込んだ観察力がありますから…、この二つは誰にも負けないだけの努力を積み重ねた結果です。

――そこが高岡先生の代わりが他にいないところですよね。一般に「軸」とか、「センター」と呼ばれて、その正体は?といっても全くわからなかったものを、実は天地を貫く潜在意識のラインのことで、「中央軸」だけでも4本に分けて捉えられることを発見されました。そのうえ、センターには、青木のように空洞のものもあるということも長年の研究で明らかにされているわけですものね。

高岡 まあ、余りほめすぎないでください(笑い)。いずれにせよ、青木のセンターの場合、先ほども言ったように中が抜けて空洞になっているというのが大事で、それが青木のもつ颯爽とした雰囲気とか、端然とした精神状態を生みだしているんですね。たとえば、今回のWBCでは味方が打てないとか、このままでは負けてしまうとか、そういう難しい試合が続いたわけでしょう。しかし、そんな中でも、彼だけがその難しい状況に囚われていない。その悪い状況の中に埋もれなかったんですね。この「囚われない」「埋もれない」ということが、どれほどあのような状況で大事なことかを皆さんもう一度考えてみてください。

――確かにそうでした。当初は誰もがイチローに期待したのですが、イチローが頼りにならず、こんなことで優勝できるのかという重苦しい雰囲気の中で、しだいに「青木ならやってくれる」と思うようになりましたからね。当然、なぜ青木がそんな存在になれたのかという疑問が生まれますが、身体意識の観点から見れば、その秘密が筒状のセンターにあったということですね。

筒状の太いセンターがあったから、青木は重苦しい雰囲気の中でもバッティングで突破口を開くことができた

高岡 その通りです。ぜひ思い切り、想像力を働かせてみてください。筒状の太いセンターが、天には星の高さほど、地には地球の中心を抜けて反対側の天に抜けるほど深く通っていると、どんな境地になるだろうかと。気持ちはすっきりサバサバしていて、周りがどんなに困難な状況になって精神的に追い詰められていても、自分だけは平気かなと思えるはずですよ。

――いやあ、さすがにその境地まではわかりません。読者の中に、わかる方がいらっしゃるでしょうか。テレビ中継を見ていた側の実感とすれば、日本打線が打てなくて、イチローも頼りにならないし、モヤモヤした重圧に押しつぶされそうになっている。そんな時にパーンと青木がヒットを打って、思わず身を乗り出したということが何度かありました。負けたら終わりという2次ラウンドのキューバ戦は、4回に青木のセンター前ヒットで突破口を開き、先制点を挙げました。

高岡 まさに、そういう場面ですよ。モヤモヤした重圧の中に抜け通る結果を見せてくれたでしょう。これは、本人の身体の中に、空洞の抜け通るセンターがあるからできたことなんです。逆にいえば、そういうレベルのことを成し遂げるには、その背景として、今説明したような身体意識の装置が必要不可欠なんだということですね。

――なるほど。たとえば、高校野球の甲子園大会でも、球史に残るような起死回生の一打を放つ選手がいますが、そんな選手にも、わずかな間だけ空洞のセンターが形成されているのかもしれないですね。

 実は、昨年8月に出版した『インコースを打て 究極の打撃理論』(講談社)の中でも、青木のバッティングについて高岡先生に詳しく解説してもらっています。その頃(分析は昨年4月頃)と比べても、WBC の青木はかなり進歩していました。野球に興味をお持ちの方は、『インコースを打て』と合わせて読んで頂くと、青木のバッティングの全体像がよりわかりやすいと思います。

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